085 セシウムの吸着構造 放射光で解明
掲載日:2024年8月13日
廃棄物の安定性を評価
分離法開発に道
2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故により、放射性セシウム(Cs)を含む除染廃棄物が発生した。セシウムは廃棄物中において、土壌に含まれる粘土鉱物に取り込まれていることが分かっている。粘土鉱物中のセシウム吸着機構を解明できれば、保管中の安定性評価に役立てることが可能だ。日本原子力研究開発機構では、放射光を用いて粘土鉱物中のセシウム吸着構造を解明。この成果は、除染廃棄物の安定性評価だけでなく、セシウム分離法の開発にも道を開く。
2鉱物に着目
セシウムを多く取り込む粘土鉱物は層状の構造を持ち、層間に陽イオンや水分子を含んでいる。また、粘土鉱物によっては異なる膨潤性を示すものがある。そのため、降雨などの天候の変化により、粘土鉱物中でのセシウム吸着構造が変化する可能性を考慮しなければならない。
そこで原子力機構では、二つの鉱物に着目。膨潤性の小さい風化黒雲母と、膨潤性の大きいモンモリロナイトだ。これらの鉱物について、それぞれの湿潤・乾燥状態におけるセシウム吸着構造の解明を試みた。
我々は大型放射光施設SPring-8において、放射光X線を用いたX線吸収分光法による各種元素の構造解析を実施。この手法は対象物質でのX線吸収量を測定するもので、特定の元素近傍の構造を明らかにすることができる。
多角的な解析
この手法を、セシウムを吸着させた粘土鉱物に適用することで、粘土鉱物中でのセシウムの吸着構造が明らかとなる。また粉末X線回折という手法により、対象物質全体の周期構造の解析を行うことで、セシウム近傍の構造と全体の構造の多角的な解析を行った。
構造解析の結果、乾燥状態では鉱物の膨潤性の大小にかかわらず、層間の陽イオンとセシウムが交換し吸着していることが確認できた。
一方で湿潤状態では、膨潤性が小さい風化黒雲母では層間から水分子を追い出しセシウムが吸着するが、膨潤性の大きいモンモリロナイトではセシウムと水分子を層間に取り込み、膨潤した層の片側にセシウムが吸着することが分かった。
このように粘土鉱物中のセシウム吸着構造を明らかにすることで、除染廃棄物中での放射性セシウムの安定性評価や、土壌中のセシウムの分離法の開発につながる。今後もより詳細な吸着構造の解明に向け、研究を継続する。