原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

084 チタン酸バリウムの特性向上

掲載日:2024年8月6日

物質科学研究センター エネルギー材料研究グループ
研究主幹 米田 安宏

日本学術振興会特別研究員、日本原子力研究所博士研究員を経て、日本原子力研究開発機構職員。大型放射光施設SPring-8のビームラインのコミッショニングフェーズより参加。原研ビームラインの建設に協力し、偏向電磁石ビームライン光輸送部の集光素子の開発を担当した。現在は高エネルギーX線を利用した酸化物の局所構造解析に従事している。

精密な構造解析で可視化

強誘電体は医療分野から情報端末に至るまで、我々の生活に欠くことのできない材料である。現在は太陽電池利用への道が示され、多くの研究者が強誘電体の開発に取り組んでいる。日本原子力研究開発機構では、強誘電体の一つであるチタン酸バリウムの特性向上のメカニズムを解明した。成果は今後、高性能小型電子デバイスの開発や、革新的な材料の創成に重要な役割を果たす。

粒径を制御

チタン酸バリウムは、携帯電話やパソコンなどの電子機器にも使用されている誘電体の一つで、電圧を加えることで電気分極が起こり、電気を蓄えることもできる。

原子力機構では茨城大学、大阪大学、東北大学とともに、チタン酸バリウムをナノキューブ化(立方体の単結晶粒子化)し、粒子の大きさ(粒径)を制御する研究に取り組んだ。チタン酸バリウムの粒径を制御することで、緻密なセラミックスの作製や、粒子表面を利用した材料設計が可能になる。

これについては元来より、合成に用いる溶媒を工夫し、粒子サイズを揃えることで性能が大きく向上することが知られていた。しかし、微粒子化によって分極の根源となる構造が埋もれ、従来の手法では見えにくくなり、なぜ性能向上につながるのかは謎であった。

放射光施設 活用

また、近年はミックスする原料の多様化に伴い、従来の解析方法では抽出できないようなわずかな変化を、より精密な構造解析によって可視化する必要がある。

そこで原子力機構では、今回合成したナノキューブに対して、大型放射光施設(SPring-8)でX線回折測定を行った後、局所構造解析を実施した。一般にチタン酸バリウムは、粒子サイズが小さくなると分極が消失する結晶構造となることが知られているが、本研究で得られたナノキューブは、今回の解析によって、分極を保持する結晶構造を示していることが分かった。

新たな指針

また、電子顕微鏡観察によって、ナノキューブ表面に「再構成層」(粒子内部とは異なる原子配列)が存在していることを明らかにした。この発見により、ナノキューブ表面の大きな誘電特性の発現につながるような、新たな成果にも期待がかかる。

微粒子化によって埋もれた構造を明らかにする局所構造解析は、混晶化やドープ(不純物添加)に対する新たな強誘電体設計の指針となる。原子力機構ではさらなる強誘電体の特性向上のため、研究を継続していく。