原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

080 ボイラ堆積物を容易に除去

掲載日:2024年7月2日

核燃料サイクル工学研究所 工務技術部 運転課
マネージャー 川崎 一男

原子力施設に電気・水・蒸気など各種ユーティリティーを供給する機械や、電気設備の運転・保守管理に従事している。ユーティリティーの供給先は所内各所に点在し、多種多様であるが、これまでに培ってきた知識や経験を活かし、設備の延命化や最適化を図りながら原子力施設の安全安心に取り組んでいる。

ドライアイスで環境配慮

日本原子力研究開発機構では、民間企業と協力し、水管に固着した堆積物を容易に除去できる技術を開発した。操作性や作業性に優れた同技術は、原子力施設での利用にとどまらず、産業界のさまざまな分野へ活用することが可能だ。

漏水の原因に

発電所や工場施設など、プラントに一般的に存在する水管ボイラの内部には、千数百本にも及ぶ水管が密集して配列され、ボイラ燃料(重油)に由来する未燃物などが水管外面に強固な状態で堆積する。この堆積物は水分に触れると高濃度の強酸性の物質に変化し、水管外面に硫酸腐食を発生させる。これらの腐食は漏水の原因となるため、技術者を長年悩ませてきた。

高い剥離能力

そんな中、ふと堆積物を除去する技術のヒントを得た。自宅でバラエティー番組を見ていると、とある企業が洗浄技術を披露していた。使用していたのはドライアイスだ。

ドライアイスは、マイナス78.9度Cの瞬間冷却によるサーマルショック(熱衝撃)効果および固体から気体への昇華時の体積膨張効果(元の体積の 750 倍)があり、堆積物に対して高い剥離能力を有する。

またドライアイスは柔らかく研磨力が低いことから、母材を損傷させる心配もない。これを圧縮空気により高速で吹き付け、堆積物を剥離することを考えた。

このような経緯から、原子力機構ではグリーンテックジャパン(津市)と協力し、約2年かけて技術開発に取り組んだ。ドライアイスの高速噴射に用いるノズルは、噴射時における詰まりや圧力損失が少なく、内部が乱流とならない形状とし、除去する堆積物の位置に合わせ、複数の延長管を組み合わせて使用できるように設計した。

作業負担軽減

噴射ノズルは向きを自由に変えることで吹き付け方向を自在に操ることができ、作業者の負担も少なく済む。また、ナノレベル(ナノは10億分の1)の堆積物除去ならパウダー状、それ以上の大きさならペレット状と、除去対象物に応じてさまざまな形態のドライアイスを使い分けることも可能だ。

同技術により、従来法では難しかった手の届かない狭隘部に固着した堆積物の除去も可能になり、保守作業の効率化・経済性の向上にもつながった。作業によって発生する副産物もないため、環境にも優しい技術といえる。同技術は、機器の洗浄や塗装・錆などの除去にも適用可能であり、今後も産業界に広く展開されることが期待できる。