077 酸化チタンの性能向上
掲載日:2024年6月11日
超熱分子ビームで窒素添加
光触媒機能
酸化チタン(TiO2)は汚れを防ぐ光触媒機能や光・電子デバイス材料としての側面に注目が集まる化合物だ。日本原子力研究開発機構では、酸化チタンの表面に窒素を添加する新手法を開発。より低コストで効率的な酸化チタンの性能向上に筋道を立てた。
酸化チタンは光によって化学反応を促進する。光には虹に見られるように「赤、橙、黄色、緑、青、紫」と波長の長い方からさまざまな色が観察されるが、酸化チタンは青より波長の短い光に反応して光触媒機能を発現する。
赤から緑のような波長の長い光で反応を促進できれば、例えば部屋の壁や天井、床、家具、衣類などの表面に酸化チタンをコーティングすることで、屋内照明で光触媒機能を使える可能性を秘める。
そのため、酸化チタンの表面に窒素を添加することで、波長の長い光にも反応する特性を得られることは知られていた。ところがその方法はいずれもプラズマなどを用いる高コストな方法であった。
酸素欠陥の克服
また、酸化チタンを構成するチタン原子と酸素原子は、それぞれの元素が一定の比で存在することが理想の状態だが、実際の表面では酸素原子が抜け落ちてしまう(酸素欠陥)ことがあった。
これらの課題を解決するために、原子力機構では世界最大の大型放射光施設(SPring-8)で整備した軟X線ビームラインを用いて、酸化チタン表面を“創る”方法と材料表面の元素や化学結合の状態を“観る”方法の開発に取り組んできた。
非常に明るいX線である放射光を使い、酸化チタンの表面やそこで生成される化合物の観察を重ねた結果、気体を小さな孔から吹き出すことにより、化学反応を起こすのに十分なエネルギーを持つ超熱状態の分子ビームを実現。加熱せずとも酸化チタン表面の酸素欠陥を埋め、低コストかつ効率的に窒素の添加ができることを発見した。
現在は温度、ガスの種類やエネルギーなどの最適な反応条件を探索しつつ、酸化チタンの理想的な表面状態の学理構築を進めている。
未開材料発見へ
我々の身の回りには、酸素と結合した酸化物が多く存在する。酸化チタンのみならず、物質材料の化学反応や状態を知り、制御することができれば、未開の材料の機能発見にもつながる。今後も放射光を使った表面科学の研究を進め、あらゆる社会課題の解決につなげたい。