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原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

076 高強度ビーム×高速度カメラで可視化

掲載日:2024年6月4日

物質科学研究センター 階層構造研究グループ
研究員 栗田 圭輔

博士課程を修了後、高崎量子応用研究所を経て、2019年に原子力機構の原子力科学研究所へ。JRR-3に設置されている中性子イメージング装置の担当をしており、装置の維持・管理やユーザー対応、装置高度化を行っている。中性子イメージングで計測したいものがありましたら、ぜひお声をかけてください。

機器内部の液体の挙動観察

中性子イメージングは材料を透過し、内部の軽元素、液体などを見ることができる技術だ。日本原子力研究開発機構では、高強度の中性子ビームとハイスピードカメラを用いて、機器内部の液体の様子を動画で観察することに成功。今後の中性子イメージングの幅広い分野での利用に道を開く。

X線と中性子

X線を測定対象に照射し、透過してきたX線のムラ(コントラスト)を計測すると、物体内部を非破壊で観察できる。その仕組みを用いたエックス線検査は、健康診断や空港の手荷物検査などで利用されており、一般にもなじみ深い例の一つだろう。

しかしX線は、水素やリチウムなどの軽い元素は透過しやすく、鉄や鉛などの重い元素は透過しにくい。したがって、身体やかばんの表面を透過して内部を観察することは得意だが、金属容器中の液体などを観察することは不得意である。

他方、可視化技術として、中性子線を利用する中性子イメージングがある。原理はX線と似ているが、中性子線は水素やリチウムといった元素にも感度があり、鉄などの金属元素は比較的透過しやすい。このためX線では見ることが難しい金属容器中の水やオイルの様子も、中性子を用いれば観察が可能だ。

日本最大強度

この技術を最大限に生かしているのが、原子力機構が所有する研究用原子炉JRR-3に設置されているTNRFという中性子イメージング装置である。大きな特徴は、日本最大強度を誇る連続中性子ビーム(1.0×10の8乗n/平方センチメートル/秒)だ。この高強度ビームとハイスピードカメラを組み合わせ、極短時間での連続中性子イメージング計測を実現した。

図は、高速回転しているエンジン内の潤滑オイルの挙動を2000 fps(フレームレート)で可視化した様子を示している。中性子イメージングにより、クランクシャフトの回転でオイルが巻き上がることでミストとなり、エンジン内で動く様子の可視化に成功した。この結果は、最適なオイル循環設計を可能とし、新規エンジン開発・設計に貢献するだろう。

幅広い分野で

最近では、この高速中性子イメージングを利用し、気体と液体が同一管内を流れる状態の観察や、機器中のグリス状態の観察などの研究開発が行われている。水素貯蔵材料や建設現場での接着剤の付着評価など、今後も幅広い分野での利用を目指し、装置整備や開発を実施していく。