原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

075 黒雲母から光触媒製造

掲載日:2024年5月28日

物質科学研究センター 階層構造研究グループ
 杉田 剛

光触媒材料を用いた水浄化や、材料の表面構造に関する研究に従事。これまでに培ってきた知識や経験を活かし、新しい光触媒材料の開発に焦点を当てた独創性の高い材料開発研究を展開している。とりわけ環境問題解決への寄与を意識し、社会貢献性の高い材料やシステムの実現に向けた成果を生み出したい。

水質浄化をより安価に

光を当てると、化学反応を促進する物質がある。これが光触媒だ。日本原子力研究所では黒雲母に塩化カルシウムを混ぜて光触媒を作り、それで水質を浄化させることに成功した。この成果は、高コストだった光触媒を安く製造することに道を開くもので光触媒の大規模利用につながる可能性を持つ。

高コストが課題

光照射によってさまざまな酸化還元反応を引き起こす光触媒は、環境調和型の材料だ。しかし、チタンなどの高価な素材を使うことが多いために製造コストが高くなりがちで、その実用例は限られていた。

このため私たちは、安価で手に入る粘土鉱物を素材として光触媒を製造することに取り組んだ。粘土鉱物に無機塩を加えて数百度C以上に加熱すると、粘土の層状構造が壊れ、無機塩を取り込んだ他の鉱物に変わる。私たちは、粘土鉱物に混ぜる無機塩の種類や加熱条件をさまざまに変えることで、光触媒活性を持つ鉱物材料を得られることを目指した。

加熱で変換

その結果、粘土鉱物の一つである黒雲母に塩化カルシウムを混ぜ、大気雰囲気の下で500度C以上まで加熱することで、光に不活性だった黒雲母を、光触媒活性を持つ材料に変換することに成功した。さらにそれは、人体にとって有害な六価クロムの還元と水質汚染物質であるサリチル酸の酸化分解を同時に進行させることを確認した。

これにより開発した光触媒は、水質浄化に利用できることが示された。この光触媒化技術は、黒雲母だけではなく、他の粘土鉱物タルクやカオリナイトといった他の粘土物質にも適用できる。

ただし、今回開発した光触媒は、紫外光を照射した環境では十分な機能を発揮するが、可視光を照射した場合の活性度は弱い。このため将来は、太陽光や室内光で機能を発揮できる研究を継続中だ。これが実現すれば、低コストで空気や水を浄化することができる。タイルや焼き物などの用途も可能だ。

農業や医療にも

なお光触媒は水や空気の浄化だけでなく、農業や医療、印刷などでの応用も検討されており、技術が進化すれば、さまざまな分野にも、光触媒材料を利用することが可能になる。私たちは環境問題の解決と、画期的な材料開発を目指すとともに、持続可能な社会の構築に資することを強く期待している。