原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

073 短時間で再処理溶媒抽出

掲載日:2024年5月14日

核燃料サイクル工学研究所 環境技術開発センター 再処理技術開発試験部 研究開発第1課
技術副主幹 坂本 淳志

使用済み核燃料の再処理に向けた研究・技術開発に従事。遠心抽出器の開発を中心に、今後の核燃料サイクルの推進に必要となる軽水炉ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料や高速炉燃料の再処理に向けたプロセスの開発、マイナーアクチノイド回収技術の開発にも取り組んでいる。今後、原子力科学技術をより一層発展させグリーン・トランスフォーメーション(GX)の推進、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献していきたい。

分離回収の高度化に道筋

遠心力を活用

使用済み核燃料には原子力発電所において再びエネルギー源として利用が可能なウランやプルトニウムが多く含まれるため、再処理の抽出工程で溶媒抽出によってこれを回収する。日本原子力研究開発機構では、この工程の高度化につながる遠心抽出器に関して、装置内に堆積するスラッジなどを効率的に洗浄する機構を開発した。これにより、保守にかかる時間を大幅に短縮し、経済性も向上する技術にめどをつけた。

従来、抽出工程で使われているミキサーセトラーやパルスカラムでは、抽出剤を含む有機溶媒の装置内での滞留時間が長く、そのため放射線劣化しやすいという欠点があった。

経済性も向上

遠心抽出器は、装置内のローターが高速回転する際の撹拌力と遠心力を利用して短時間で二相を混合、分離できるため、これを抽出工程に適用できれば、抽出にかかる時間が大幅に短縮され、有機溶媒の劣化を抑制でき放射性廃棄物の低減にもつながる。さらに、抽出工程に必要な装置を小型化できることからも経済性が向上する。

しかし、遠心抽出器内では、水に溶けない微小なスラッジが遠心力によって装置内に蓄積し安定的な運転に支障をきたす場合があるため、堆積物除去方法の確立が技術的な課題となっていた。

堆積物を除去

このため原子力機構では、遠心抽出器内に堆積するスラッジなどを効率的に洗浄する機構を開発。これを組み込んだ装置で模擬スラッジを用いて試験したところ、従来の洗浄運転では取り切れなかったスラッジをすべて除去することに成功した。また、洗浄時間と洗浄液量を従来の5分の1にするとともに、スラッジの堆積挙動を把握したことで、洗浄する際の最適なタイミングも明らかにした。

遠心抽出器はその処理性能の高さから、現在の軽水炉燃料だけでなく将来の高速炉燃料を再処理する際の抽出工程や、長半減期核種であることから消滅処理が望まれるマイナーアクチノイドなどの分離への適用が期待されている。本技術の確立は、核燃料物質などの分離回収プロセスの高度化に道筋をつけると言えよう。

また、回転機構を持つさまざまな機器は、医薬品や食品の製造、廃棄物の処理など広い分野で利用されている。今回、得られた技術的ノウハウは、これら他産業の機器の高度化への貢献も期待される。