070 地球深部の水素挙動解明
掲載日:2024年4月9日
実験室に高温・高圧環境
未踏の世界
高温高圧力下にある地球深部の岩石や鉱物には、水素が溶け込んでいると考えられている。日本原子力研究開発機構ではそのような環境を実験室で再現し、そこで水素のふるまいを観察する技術を開発した。この技術は、特異な性質をもつ物質の合成とその物性解明への適用なども期待される。
水の惑星ともいわれる地球。その水を酸素とともに構成する水素は、鉱物中にさまざまな形で取り込まれて、地表だけでなく地球深部にも相当量が存在しているとされる。こういった水素の存在は、鉱物や岩石の電気伝導度や熱伝導度、粘性や融点などの物性に影響を与えるため、地球全体の熱的・化学的進化のカギとなる重要な元素として注目されている。地球の深部は高圧力と高温の世界だ。その中心は360万気圧、温度は数千度Cという極限条件下にある。このため人類はとうてい到達できない。
加圧500トン‼
そこで私たちは、実験室内に高温・高圧力条件を再現し、東海村のJ-PARCで得られるパルス中性子ビームを利用して、物質科学的な視点から研究を行っている。物質に中性子を入射すると、その物質の原子核により中性子が散乱される。その散乱を検出することで鉱物中に含まれる水素を”見る”ことが可能だ。しかし中性子を使った測定では、多くの試料を必要とするという難点があった。
これを克服するために、J-PARCの物質・生命科学実験施設内に超高圧中性子回折装置PLANETが建設された。本装置が有する「6軸型マルチアンビルプレス」は、中心にある立方体空間を、独立した6つの油圧ジャッキにより精密に等方圧縮することができる。その加圧性能は1軸当たり500トン。これにより地下600 ㌖での圧力に相当する圧力下での中性子実験が可能となった。
新物質の創生も
PLANETでの実験により、水素を含む鉱物中で、水素結合の対称化という独特の現象が起こることを実証した。さらに、地球の核に存在する水素量の推定などの成果も得られた。
研究の適用例は地球科学にとどまらない。大きなエネルギーを試料に加圧できるため、特異な物性を持つ新しい物質を合成することも可能だ。また、高温超電導など水素が特異な物性の発現に関わる現象のメカニズムについても、飛躍的な理解をもたらすと期待される。