068 高温ガス炉固有の安全性実証
掲載日:2024年3月26日
安全基準 国際標準化目指す
安全性優れる
高温ガス炉はその名の通り、900度C以上の高温ガスを取り出すことができる。安全性に優れ、世界中で開発が進められている革新炉だ。 日本原子力研究開発機構では大洗研究所にある高温工学試験研究炉(HTTR)で、事故時でも炉心溶融が起きないことを実証する試験を行う。今回の実証試験によって、出力100%の状態から原子炉が冷却できず、制御棒も挿入されない状態になったとしても、安定な状態を維持できることを確認する。
高温ガス炉は軽水炉と大きく構造が異なる。どちらも燃料はウランだが、軽水炉はそれをジルカロイ合金被覆管に収め、減速材や冷却材には水を使う。一方で高温ガス炉はウランをセラミックで覆った粒子を黒鉛で焼き固め、減速材には黒鉛、冷却材にはヘリウムを使う。燃料は耐熱性に優れ、減速材の熱容量は大きい。また冷却材のヘリウムは化学的に安定している。これらの特性が、格段の安全性を実現している。
原子炉 自然停止
原子力機構では2002年からHTTRで、冷却材であるヘリウムガスの循環流量を減少させ、制御棒挿入も行わない状態にする試験を実施。さらに10 年には出力30%の状態でヘリウムの流量を完全に停止する炉心流量喪失試験を行い、負のフィードバック特性で原子炉が自然に停止し、安定な状態を維持することを実証した。出力100%からの実証試験は、これらの安全性実証試験の集大成となる。原子力機構では、こうした安全性実証試験を通じて得られたデータを用いて安全解析コードの高度化を図り、優れた安全性の特徴を考慮した実用高温ガス炉システムの安全基準の国際標準化を目指す。
また、原子力機構では04年にHTTRで、世界で初めて原子炉出口冷却材温度950度Cを達成した。300度C程度までしか利用できない軽水炉に比べ、高温ガス炉での900度C以上の高温は、高効率のガスタービン発電での利用に加え、水素製造やその他の化学プラントの熱源、さらに排熱は地域暖房にも利用できる。とりわけ化石燃料に由来しない水素製造は、将来の水素社会実現への大きな足がかりとなり、水素は直接還元法による製鉄での利用が期待される。
脱炭素に貢献
高温ガス炉のこれらの特徴は、国際的な原子力エネルギー利用促進につながるほか、わが国のエネルギーセキュリティーの向上、さらには世界の脱炭素にも貢献することが期待される。