067 ガラスの原子構造を解明
掲載日:2024年3月19日
高精度数値実験で再現
規則性がない
ガラスは現代社会に欠かせない材料の一つだ。しかしガラスの原子構造は規則性がなく、その構造は物質科学での大きな謎の一つとなっていた。日本原子力研究開発機構では機械学習を応用したシミュレーション手法を用いることで、シリカガラスの原子レベルでの構造を明らかにした。この成果は、新しいガラスの創成に道を開くものとして期待される。
ガラスは透明で化学的にも安定しているため、窓ガラスや光ファイバー、半導体などに広く用いられている。その主成分は二酸化ケイ素(SiO2)で、不規則な原子構造を持つ。このため製造過程や原料で構造を変化させ、より高機能化できる可能性がある。
秩序を解明
また、構造解析実験の結果は、その構造の中になんらかの秩序があることを示唆しており、その正体を解明できれば、新しい応用につながる。その秩序の正体については、多くの仮説が提唱されてきた。しかし、実際に原子がどのように並んでいるかを実験で調べることは困難だった。
このため私たちは、多数の原子の動きを高精度なシミュレーションで計算し、その構造をコンピューター上で再現することを試みた。
しかし、従来のシミュレーションでは精度を上げると計算負荷が高くなり、多数の原子を扱えない。そこで私たちは、機械学習分子動力学という手法に注目した。従来の量子力学に基づく計算の結果を機械学習することで、計算負荷を大幅に低減。高い精度で多数の原子の計算を可能とした。
この手法を用いて二酸化ケイ素だけからなるシリカガラスを対象に計算を実施。実験データに頼らず計算のみで、構造解析実験を高精度に再現できた。さらに、そこで得られた構造を解析し、「ケイ素-酸素の共有結合ネットワークによるリング構造の繰り返しが秩序構造を形成する」という仮説が正しいことを実証した。
透明度が向上
私たちは高密度化すると、秩序構造が発達する理由も明らかした。これをもとにシリカガラスを高密度化できれば、透明度が著しく向上し、高性能光ファイバーなどへの応用が可能となる。この高精度シミュレーション手法を活用すれば、製造過程や原料をどのように変えればガラスの秩序構造をコントロールできるか指針が得られ、新機能性ガラス材料の開発の加速が期待される。