063 放射線を電力に変換
掲載日:2024年2月20日
半導体接合素子で再資源化
画期的な研究
放射性同位体(RI)から出るガンマ線を、電力に変換できないか―日本原子力研究開発機構の研究者たちが今、そんな画期的な研究を進めている。これが実現すれば、へき地や宇宙空間といった孤立したエリアでの電源として応用できる。太陽からの直射日光は、屋根に太陽光パネル(半導体接合素子)を並べることで、電力に変換することができる。理論的にはそれと同じことが、RIからの放射線でも可能だ。
例えば原子力発電所から出る使用済み核燃料は、強力なガンマ線を放出するが、人体には有害であるため、遮蔽物で防護する必要がある。その遮蔽物に半導体接合素子を用いれば、ガンマ線が電力に変換され、エネルギーとして再資源化できる。長寿命のRIは、通常は厄介視される。しかし、電気を生み出す「再資源化」が実現すれば、昼夜天候を問わず長期間安定して利用できるエネルギー資源へと生まれ変わる。
2つの課題
とはいえ、このガンマ線を再資源化するためには、二つの課題がある。一つは、太陽光パネルに用いられるシリコン半導体接合素子が、ガンマ線に弱いことだ。線源のRIが長寿命でも、この素子ではその長期利用に耐えられない。もう一つは、ガンマ線が材料に対して高い透過力をもつために、エネルギー変換効率が低く、遮蔽効果も薄いことである。
一つ目の課題を解決するために、私たちはガンマ線耐性が高い炭化ケイ素に注目した。これを使った半導体接合素子を作製。これに、大型放射光施設「SPring-8」のビームラインから出てくる放射光をガンマ線とみなして照射し測定を行った結果、電力が発生することを確認し、再資源化が可能であることを示した。
放射光による照射では接合界面の状態を分析することもできる。私たちはこの分析などをもとに、さらに二つ目の課題である、強い透過力に対抗できる吸収量の大きな素子開発を手がけている。
宇宙でも利用
このような素子が実用化できれば、宇宙空間のような孤立したエリアでの電源や、へき地における通信用電源、長期監視が必要な使用済み核燃料のモニタリングなどへの応用が考えられる。現在は保管するだけのRI廃棄物。これがエネルギー資源へと変わる夢の実現に、私たちは取り組んでいる。