062 イオン伝導の仕組み解明
掲載日:2024年2月6日
全固体電池実用化に道筋
安全性に優れる
全固体電池とは、電極の間にある電解質を液体から固体に変えたものだ。エネルギー密度や安全性に優れるとともに、これを使った電気自動車の走行距離も伸ばせる。今、注目を集めている電池である。その性能のカギを握るのが、電解質のイオン伝導だ。日本原子力研究開発機構では、それらの原子の結晶構造を分析することに成功し、イオン伝導のメカニズム解明に新たな道筋をつけた。
通常の固体物質の中での原子は結晶格子を組んで静止しており、格子内のイオンが動くことはない。けれども食塩水のような溶液中では、イオンが溶液中を漂い、電荷の担い手となる。このような現象をイオン伝導という。
しかし、固体であっても、このイオンが流れる場合がある。ある種の固体中では、水素やリチウムのような軽い原子のイオンは電圧をかけるとその方向に流れ出す。この性質を利用しているのが、全固体電池の固体電解質やリチウムイオン電池(LiB)の正極材料だ。
伝導度向上カギ
これらの製品の性能は、イオン伝導度の向上がカギを握る。このため私たちは、それに関わる原子の結晶構造と、水素やリチウム原子の結晶格子内での位置を調べることに着手した。
その解明に威力を発揮したのが、中性子である。私たちは原子力機構の研究用原子炉JRR-3で、LiBの正極材料であるリチウム化合物の粉末試料を使って中性子回折実験を実施。その結果、骨格となる遷移金属と酸素、さらにリチウム原子の配列が分かった。
さらに私たちは、イオン伝導に関わる原子の熱振動を3次元での可視化を試みた。その結果、リチウム原子だけが結晶格子内で2次元的に大きく広がっている様子が見えた。これはリチウムイオンが結晶格子内を伝導しやすく、この分布に沿って伝導することを表している。
他物質にも適用
こうしてリチウムイオンの伝導しやすさと伝導経路が可視化され、イオン伝導のカギとなる情報を得ることに成功した。これらの成果はリチウム電池材料のみならず、他のイオン伝導体物質にも適用できる。
電池の全固体化や動作温度の適正化へ向けた新たなイオン伝導体の材料開発はまだ途上だ。私たちは得られた技術を使って、水素イオン伝導体物質などの構造研究に取り組んでいく。