061 局所域の線量評価システム
掲載日:2024年1月30日
大気濃度・沈着分布を解析
緊急時に対応
原子力施設での事故や放射性物質による拡散テロが起きた際には、放出点から放射性物質が拡散する。日本原子力研究開発機構は放出点の近くにある建物まで考慮した上で、それがどのように拡散していくかを評価するシステムを、世界に先駆けて開発した。これにより、そのような事態が起きた時には汚染状況をいち早く把握できるとともに、住民避難などの緊急時対応に資することができる。
原子力機構が開発したシステム「LHADDAS(ラーダス)」は、放出点から数㌖以内の局所域スケールでの放射性物質の複雑な大気濃度分布や沈着分布を計算するとともに、建物による放射線の遮蔽効果を考慮して詳細に線量評価ができる。
風・建物を考慮
この解析システムは、建物の影響を受けた複雑な風の流れを考慮した高分解能大気拡散計算コード(LOHDIM-LES)と、建物の遮蔽効果を考慮した線量率評価コード(SIBYL)、都市大気拡散の高速計算が可能な計算コード(CityLBM)で構成される。SIBYLは原子力機構の佐藤大樹研究主幹、CityLBMは小野寺直幸研究副主幹が開発した。これら三つの計算コードを統合することで、局所域での大気拡散のさまざまな課題に対応できる解析を可能にした。
この統合システムは、原子力施設の安全審査のための従来手法に代わる現実的な拡散解析、原子力緊急時の事前・事後解析による対策立案や影響評価、都市市街地テロ災害時の即時解析に対応できる。
現在、警察庁科学警察研究所との共同研究を開始し、LHADDASのテロ対処訓練への活用により、テロ発生時に危険区域となる可能性の高い地点の抽出や、緊急時対応要員・避難住民の被ばく線量低減のための対策立案につなげる手法開発に取り組んでいる。
社会実装へ研究
また、中部電力の原子力安全技術研究所との共同研究では原子力施設敷地スケールでの詳細な空間線量率分布評価を、島根県原子力環境センターとは環境モニタリングと融合した放射性物質の時空間分布評価手法の高度化研究を実施。事業者や自治体の要望に応じた課題解決と社会実装に向けた応用研究を進めている。