原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

060 デブリの化学変化に新知見

掲載日:2024年1月23日

原子力基礎工学研究センター 化学・環境・放射線ディビジョン 原子力化学研究グループ
マネージャー 熊谷 友多

専門は放射線化学。地層処分や再処理、廃炉に関連する放射線分解の研究を進めている。特に放射線環境下での固体と水との混合物で生じる化学反応に関心を持つ。最近はウラン酸化物表面や地下水中の放射線化学反応モデルの研究、放射線分解によって発生する水素の分析技術開発に取り組んでいる。

福島第一原発 安全に廃炉

取り出し開始

福島第一原子力発電所(1F)では、核燃料デブリの取り出しが始まる。その後の進展で重要なカギとなるのが、取り出したデブリを安全に保管する方法の検討だ。日本原子力研究開発機構では長期保管後のデブリの化学変化を、模擬燃料デブリを使って研究し、二酸化ウランがジルコニウム(燃料被覆管の金属元素)と高温で反応した場合、ウランの溶け出しが予想より極めて少なくなることを突き止めた。

核燃料デブリは、過酷事故で溶けた燃料が、周囲の金属材料と高温で反応し、混合物として冷え固まったものだ。1Fでの廃炉では、取り出したデブリを安全に保管する計画で、そこではデブリの化学的性質を把握することが重要になる。

放射線影響 研究

このため原子力機構は東北大学、京都大学と協力して、デブリに含まれるウランを含んだ成分が、放射線の影響を受けてどのような化学変化を起こすかを研究してきた。

一方、諸外国で進められている直接地層処分では、使用済み核燃料を再処理せずに深地層に埋設する。この場合、長い年月を経て地下水と使用済み核燃料が接触することが想定され、その際に使用済み核燃料からの放射線で地下水が分解され、水素や酸素、過酸化水素が生じる。

このうち過酸化水素は核燃料の母材である二酸化ウランと反応し、水溶性のウラニルイオンを生成する。1Fのデブリも冷却水と接している。このため私たちは、直接地層処分での知見を参考に、同様の反応が進む可能性を研究。デブリを模擬した研究試料を使って過酸化水素を含む水溶液の中での反応を分析した。

溶け出し少なく

その結果、ウランは溶け出してくるものの、溶け出す速度は二酸化ウランと同程度か、それより遅い結果になった。特に、被覆材成分のジルコニウムが高温で二酸化ウランに溶け込んだ固溶体という状態となった試料は安定で、ウランの溶け出しが極めて少ないことが分かった。

このような固溶体の状態は、炉内で採取された微粒子でも観測されており、過酸化水素に対しては安定と推定できる。ただし、化学変化が遅い理由などにはまだ分からない部分が残る。

今後は、核燃料デブリの保管の際にどのような化学変化が想定されるのか、詳細な科学的なメカニズムを示して安全な保管方式の検討に寄与していきたい。