原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

058 原子核の基盤DB「JENDL」

掲載日:2024年1月9日

原子力基礎工学研究センター 核データ研究グループ
グループリーダー 岩本 修

日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に入所以来、JENDLの開発に従事。これまで原子核物理の知見を統合した原子核反応モデル計算コードを開発し、JENDLの開発に役立ててきた。今後はJENDLのとりまとめを行いつつ、原子核に関する幅広い最新の知見を原子力や放射線利用へ役立てる基盤を構築したい。

最新版795核種を網羅

核データ拡充

原子力発電や加速器を利用した医療用装置を設計する場合には、その根幹となる放射線と原子核との反応の起こりやすさを表す核データが必要となる。日本原子力研究開発機構では従来の核データを大幅に拡充し、革新炉や医療用加速器利用にも対応できるデータベースJENDL-5を開発した。

原子炉内では放射線と原子核との間でさまざまな反応が起こっている。このうち原子力発電は、ウラン原子核に中性子が当たって原子核が分裂する際に発生するエネルギーを利用したものだ。原子炉を設計する際には、この反応の起こり方を正確に予測することが重要となる。

数値シミュレーションはそのための強力な手段だが、その計算には核データと呼ばれる原子核の基盤データが不可欠だ。核データとは中性子などの放射線と原子核の反応の起こりやすさなどに関するデータのこと。これらの反応は原子核の種類や中性子のエネルギーに強く依存している。

原子力機構は国内の原子力関係者などと協力して、日本独自の原子核データベースJENDLを開発している。その初版であるJENDL-1は高速炉開発に対応したもので、72核種を収録した中性子反応データが1977年に公開された。

対応範囲を拡大

その後もJENDLは、軽水炉や核融合炉などに対応範囲を広げてきた。近年は革新的原子炉の開発のほかに、放射性廃棄物の処理処分や医療分野での加速器利用など、放射線の利用が拡大。これらの研究開発における対象物質や放射線の中には、これまでにはないデータが必要となっている。

このため2021年に公開した最新版のJENDL-5では、データを大幅に拡張し、陽子や重陽子、アルファ粒子、ガンマ線などによる原子核反応データを収録した。また、中性子データもJENDL-1の10倍以上に拡充し、795核種をカバーした。

信頼性向上

さらに大強度陽子加速器施設J-PARCで測定した最新データや理論モデル計算の知見を基にデータの信頼性向上を図り、原子力や放射線利用におけるさまざまな課題に対応できる最新の原子核基盤データベースとなっている。数値シミュレーションの信頼性を大きく向上させたJENDL-5は、さまざまな分野で今後の研究開発に貢献することが期待される。