原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

057 核分裂生成物化学挙動DB構築

掲載日:2023年12月26日

原子力基礎工学研究センター 燃料・材料工学ディビジョン 燃料高温科学研究グループ
グループリーダー 三輪 周平

原子力機構に入所後、核燃料に関する基礎研究に従事。1F事故後はセシウムやヨウ素などの核分裂生成物の事故時のふるまいに関する研究を進めてきた。今後は核燃料と核分裂生成物の両輪で、原子力の安全性向上の観点で社会貢献できる新たな基礎基盤研究のテーマを模索していきたい。

セシウムの性状推測

被ばく管理寄与

福島第一原子力発電所(1F)の原子炉内には今も、化学的に反応しやすい放射性セシウムが残る。日本原子力研究開発機構では、セシウムの化学挙動についてデータベースを構築し、その性状推測に初めて一定のめどをつけた。これを活用することにより、廃炉作業における被ばく管理に寄与することが期待できる。

1Fの原子炉内や原子炉建屋内には今も、放射性セシウムが大量に残っており、廃炉作業によって水に溶け出したり、再び浮遊したりする可能性がある。このため、その性状を把握することは被ばく管理などの安全対策上、必須である。

事故時の原子炉内や原子炉建屋内のセシウムのふるまいは、シビアアクシデント解析コードにより推測される。しかし、化学的に反応しやすい特性をもつセシウムが事故時には原子炉内の構造材とどのような反応を生じて、どのような特性の化合物が生成するかという化学挙動は不明であった。このため、それを踏まえたセシウムのふるまいや性状は分からないままだった。

信頼性を向上

そこで原子力機構では、実際に原子炉内で起こり得るセシウムと様々な蒸気種や構造材料との化学反応に関するデータやモデルを新たに取得して、データベースを構築した。さらにデータベースによる解析値の妥当性を検証するため、事故時にセシウムが原子炉内を移行していく環境を再現できる装置を製作。この装置により、データベースの信頼性を向上させた。

「ECUME」と名付けたこのデータベースは、セシウムの事故時の温度や水との反応に加え、1Fで制御材として使われているホウ素との化学反応や、原子炉内のステンレス鋼に含まれる鉄やケイ素との化学反応の計算を可能とした世界で初めてのデータベースである。この「ECUME」をシビアアクシデント解析コードに適用することにより、多様な事故条件に応じた化学挙動の解析が可能となった。

他施設で適用

この成果は、セシウムのふるまいや性状を本格的に把握するための足掛かりとなるもので、1F廃炉作業における安全対策立案に寄与できる。なお「ECUME」はセシウムだけでなく、既設軽水炉の継続的な安全性向上の観点で重要なヨウ素などのデータも蓄積しており、さまざまな原子力施設での適用が期待される。