原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

056 高レベル廃液からMA分離

掲載日:2023年12月19日

原子力基礎工学研究センター 燃料サイクル科学研究グループ
グループリーダー 伴 康俊

入所以来、溶媒抽出法による使用済み燃料再処理とMA分離の研究開発に従事。放射性廃棄物の減容・有害度低減や有用元素の資源化を目指して、燃料サイクル安全工学研究施設を活用して核燃料物質や放射性同位元素を用いた試験を行い、実験事実に裏打ちされた分離プロセスの研究開発を進めていきたい。

溶媒抽出法で連続処理

処分負担を軽減

高レベル放射性廃液は何万年にもわたって強い放射線を出し続ける。しかし、アメリシウムなどのマイナーアクチノイド(MA)を取り除けば、その期間を数百年まで短縮できる。このため、高レベル放射性廃液からMAを分離し、それを加速器や高速炉で照射して、半減期の短い核種や安定な核種に核変換できれば、高レベル放射性廃棄物の処分の負担は大幅に軽くなる。その際に大きな課題となっていたのが、高ベル放射性廃液からMAを分離する方法だ。

日本原子力研究開発機構では核変換に必要な分離プロセスとして、再処理とMA分離を統合したSELECTと呼ばれる溶媒抽出法によるプロセスを開発し、MAを効率的に分離できることを実証した。溶媒抽出法とは、水と油のように混ざらない2種類の液体を振り混ぜ、特定の物質を水の相から油の相に移す分離法であり、高レベル放射性廃液を連続的に処理できる。

焼却できる試薬

しかし、これまでに開発された溶媒抽出法によるプロセスの多くはリンや硫黄を含む試薬を使用しているため、使用済みの試薬が新たな放射性廃棄物となる欠点があった。そこで私たちは、焼却によるガス化分解が可能な炭素や水素、酸素、窒素から構成された試薬を用いた分離プロセスの開発に取り組んだ。

特にMAと希土類は化学的性質が良く似ているため、両者の分離が大きな課題となっていたが、溶媒抽出試験に加えて溶媒抽出プロセスのシミュレーションコードPARCを活用し、焼却処分できる試薬のみを使って使用済み燃料溶解液および高レベル放射性廃液中の元素を4段階に分けて化学的に分離するSELECTプロセスを構築した。

さらにこのプロセスを実証するため、原子力科学研究所・燃料サイクル安全工学研究施設のコンクリートセルで、数百ミリリットルの高レベル放射性廃液を用いた遠隔操作による抽出分離試験を実施。アメリシウムなどのMAを高効率で分離するSELECTプロセスの開発に世界で初めて成功したことを確認した。

白金属の分離も

高レベル放射性廃液にはMAのほかに、希土類や白金族元素のように資源としての価値が見込まれる元素が多く存在している。私たちはSELECTプロセスを改良することにより、MAだけでなくこうした有用元素の分離も目指している。