原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

055 地形で読むマグマの通り道

掲載日:2023年12月12日

東濃地科学センター 地層科学研究部 ネオテクトニクス研究グループ
特定課題推進員(博士研究員) 西山 成哲

大学では地球科学を専攻。これまで野外調査を中心とした調査・研究を行い、その過程でGISソフトも利用してきた。東濃地科学センターに着任し、野外調査を中心とした研究だけでなく、GISソフトを利用した地形解析にも従事している。専門的知見(シーズ)と、社会的要求(ニーズ)とをつなぐ研究を進めていきたい。

パソコンで解析が可能

火山の性格把握

「この火山は次にどこで噴火するのか?」ー。日本原子力研究開発機構は、その手掛かりとなるデータを、等高線から読み解く手法を開発した。専門知識がなくても利用できるため、自治体担当者による火山防災の事前検討などに活用が広がりそうだ。

火山のどの場所で噴火が起こりやすそうかを予測するには、これまでの噴火でマグマがどこをどう通って噴火に至ったのかという情報を基に、その火山の“性格”を読み解く必要がある。しかしそれは、火山を輪切りにでもしない限り確認することは難しい。これを解決する糸口は火山の地形にある。マグマの通り道である火道やマグマが地下で放射状に成長し固まった岩脈の分布は、従来から火山の地形との間に因果関係があるとされてきた。

等高線に着目

この因果関係が解明できれば、関係を逆手に取り、火山の地形から過去のマグマの通り道を推定できる可能性がある。原子力機構ではこの点に注目。地形とマグマの通り道との関係性を解明するために、まずは「地形」を表す「等高線」に着目した。このデータは、全国に整備され、誰もが利用できる利点がある。

この等高線を使用して、高まりを表す囲われた等高線の面積・分布・伸びの方向と、マグマの通り道についてよく調べられている火山で検証することで、地形とマグマの通り道との関係を検討してきた。

その結果、囲われた等高線の面積は「火道の安定性」、等高線の分布・伸びの方向は「放射状の岩脈がより発達する方向」と関係があることを解明した。現在はさらに、この関係について特殊な事例も含めた検討を行い、地形からマグマの通り道を推定する手法の高度化を進めている。

客観的な結果

今回考案した手法は、パソコンとソフトウェアさえあれば、誰もが専門的な知見を踏まえた客観的な推定結果を得ることができる。使用するのは地理情報システム(GIS)ソフトや国土地理院が公表している全国の10㍍メッシュのDigital Elevation Model(DEM)、そして原子力機構が開発した操作マニュアルで、すべて公開されている。この手法は、火山の専門家以外でも簡単に利用できる。このため、自治体の防災担当者が火山調査の糸口として活用することなどが期待できる。