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原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

054 核燃料サイクルシミュレーター NMB4.0

掲載日:2023年12月5日

原子力基礎工学研究センター 核変換システム開発グループ
グループリーダー 西原 健司

専門分野は核燃料サイクル評価と炉物理。核変換システム開発グループのリーダーとして放射性廃棄物の放射性毒性を小さくする加速器駆動核変換システムの研究開発を行っている。また、東工大特定教授を兼務し、東工大と共同でNMB4.0の開発を進めるとともに、有志によるTEAM NMBを創設し、普及に努めている。

NMB4.0を無償公開

将来シナリオ

2023年7月にグリーン・トランスフォーメーション(GX)推進戦略が閣議決定され、脱炭素化を実現し、エネルギーを安定供給するために、原子力を活用する方針が定められた。これを戦略的に進めるためには、どのような炉型と核燃料サイクルを採用するかを見極めることが重要となる。そのためには、将来必要となるプラント群の規模や施設を具体的・定量的に示した上で、研究開発、プラント整備計画立案、利害関係者のコミュニケーションを行う必要がある。

しかし、わが国では、そもそも定量化のための高性能なシミュレーターが公開されておらず、将来シナリオに関する研究は極めて乏しかった。

この状況を打開するために、日本原子力研究開発機構と東京工業大学は、多様な将来の原子力シナリオに沿ってプラント群の規模や取扱量を計算することができるシミュレーターの開発に着手。高速かつ汎用性や柔軟性に優れる核燃料サイクルシミュレーターを開発し、22年3月にオープンソースとして公開した

NMB4.0と名付けられたこのシステムは高速な計算アルゴリズムを備え、マイクロソフトエクセル上で動作し、将来技術を含んだ高度な解析を誰もが行える。ユーザーは原子炉の種類、発電容量、稼働年を入力すれば、必要となる燃料製造量や発生する使用済み燃料量を知ることができる仕組みだ。

廃棄物も定量化

さらに年ごとの再処理量を入力すれば、プルトニウムの収支や放射性廃棄物の発生量も定量化できる。こういった解析結果から、例えば、現在わが国で使われている軽水炉が、ウラン資源の消費量が小さく、廃棄物発生量の少ない高速炉などの次世代炉に置き換わっていった場合に、どの程度のメリットがあるかを定量化することができ、次世代炉を導入することの負担に見合うかといった議論をすることができる。

多様な選択肢

私たちは公開以来、講習会・研究会を多数開催。これにより多くのユーザーに利用され、国内のシナリオ研究が活発化している。さらに私たちはNMB4.0を国内外のスタンダードツールとし、ユーザーを支援し、多様な選択肢がある将来の原子力発電像を誰もが簡単に定量化できるようにすることを目指す。これにより、データに基づいて将来のあるべき姿を目指す開かれた議論が行われることを期待したい。