052 原子核内の謎に迫る
掲載日:2023年11月21日
基礎研究から核変換に応用
原子核に照射
原子核は陽子と中性子からなる。しかし、その原子核がどのような形をしているかは、いまだに謎の部分が多い。日本原子力研究開発機構では原子核に陽子ビームを照射し、原子核にある粒子をたたき出す反応を理論的に精査することで、原子核の構造の謎に一歩、迫ることができた。
原子核の中では、陽子や中性子がばらばらに存在するが、それらが塊(クラスター)を作ることもある。また、原子核全体が水滴のようなふるまいをすることもある。それが二つに別れる例が核分裂であり、逆に二つが一つになる例が核融合だ。
一方、ノーベル物理学賞受賞者のメイヤーとイェンゼンは、原子核の中の陽子や中性子が電子と同様に、電子軌道に似た軌道を飛び回っていることを解き明かした。これは、例えるならばガスのような状態だといえる。さらに原子核は、陽子や中性子が特に硬いクラスターを作ることもある。
重要な役割
その代表がヘリウム4原子核で、二つの陽子と二つの中性子からなり、これはアルファ粒子と呼ばれる。このアルファ粒子の流れがアルファ線だ。そしてこれらの構造は、アルファ崩壊や宇宙での元素合成に重要な役割を果たしている。
このように多彩な構造をもつ原子核を量子力学から分析するために、私たちはポロニウムなどの原子核に陽子ビームを照射して粒子をたたき出すノックアウト反応の理論研究を進めてきた。
この反応で原子核から新たに陽子や中性子、あるいはアルファ粒子がたたき出される確率と、さまざまな構造の存在確率との対応関係を調査。その結果、アルファ粒子ノックアウト反応が起きる確率は原子核の表面でのアルファ粒子形成率と比例していることを発見した。
アルファ崩壊の寿命は主に、アルファ粒子形成率と、アルファ粒子が原子核外に出るポテンシャル透過確率の二つの要素によって決まる。ノックアウト反応によってその一方を決定できれば、アルファ崩壊現象の理解が大きく進む。
低減・資源化
このような原子核の構造の理解は、核変換としても応用可能だ。内閣府の革新的研究開発推進プログラム (ImPACT) ではこのような核反応を用いて高レベル放射性廃棄物を核変換し、低減・資源化する研究が進められた。
実用化への道はまだ長いが、世界中でその研究が一歩ずつ進められている。