原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

033 3次元免震装置を開発

掲載日:2023年7月4日

高速炉設計部 高速炉プラント設計Gr
研究副主幹 山本 智彦

2010年に原子力機構入社。フランスの電力EDFでは1年かけて、高速炉スーパーフェニックスの運転経験調査を行った。日仏の高速炉研究開発協力では耐震性を検討。現在は免震や原子炉建屋、原子炉構造の耐震性に関する設計研究開発に従事するともに、小型モジュール炉(SMR)に適用する新たな免震機構の研究開発を行っている。

水平・上下機能を一本化

ナトリウム冷却高速炉に対する耐震性向上策はこれまで、水平免震機構を建屋下部に設置することが検討されてきた。これに加え日本原子力研究開発機構では、上下方向の地震動低減にも有効な一体型3次元免震装置を開発し、性能を確認した。これは精密工場や博物館にも適用可能だ。

地震大国である日本では、あらゆる建築物に対して高い耐震性が求められる。特に原子力分野においては、より高いレベルでの耐震性が求められている。

大規模地震想定

このうちナトリウム冷却高速炉での耐震性向上策としてはこれまで、積層ゴムを用いた水平免震機構を建屋下部に設置することが検討されてきた。

しかし大規模地震を考慮すると、水平免震だけではなく上下方向の地震動低減策が必要となる。このため原子力機構では、水平免震と上下免震の両機能を一体化させた3次元免震装置の開発に取り組んだ。

メンテ容易

水平方向と上下方向の免震を同時に両立させる免震装置の考え方自体は以前からあった。今回、原子力機構と電力会社、メーカー、ゼネコンなどとの共同研究によりさらに、メンテナンスや配置の容易さ、コスト低減を考慮し、「できる限り従来の要素を活用し」「水平免震機構と上下免震機能を両立させるために必要な追加設備を用いず」「配置やメンテナンスが容易である」との方針のもとに研究開発を行った。

この概念を実現するにあたり私たちはまず、従来使用されている免震要素の性能把握試験を実施し、その試験結果を基に地震応答解析を行い、一体型3次元免震装置の実証試験体を製作した。

試験体を用いた試験では見事に、設計通り「水平免震機構と上下免震機能が独立して機能する」ことを実証でき、一体型3次元免震装置の実現性にめどが立った。

今後はこの一体型3次元免震装置を規格化するため、必要な試験を追加で実施するとともに、規格化条文案の検討や長期信頼性確認試験などを行い、ナトリウム冷却高速炉の耐震性向上に寄与したいと考えている。

博物館にも適用

なお、この一体型3次元免震装置はナトリウム冷却高速炉への適用だけにとどまらず、地震による操業停止が懸念される半導体工場やデータセンター、さらには貴重な展示物を展示している博物館や美術館といった建物にも適用できると考えている。