030 ストロンチウムを分離
掲載日:2023年6月13日
稀少金属回収に新手法
特性に応じ対応
日本原子力研究開発機構では、これまで難しかった放射性ストロンチウム(Sr)の分離を、配位高分子という方法を用いることで、効率よく分離できる方法を発見した。この知見は希少金属回収や環境浄化にも応用できそうだ。
原子力施設で発生する放射性物質を適切に管理するためには、それらを分離することが必要となる。その分離には、放射性物質の特性に応じて、試料や溶媒を用いる化学的手法や、吸着、蒸留を利用する方法などが用いられる。
このうち放射性Srの分離には多段階の化学的手法が用いられることが多いが、Srと似た性質をもつカルシウム(Ca)の分離が難しいという難点があり、関係者を長い間悩ませてきた。
このため原子力機構では、イオンの大きさの違いをもとに分離する方法に取り組んだ。しかし、この方法でも、環境中にふんだんにあるCaの存在が立ちはだかる。放射性SrイオンとCaイオンの半径の差はわずか0.2オングストローム。1㍉㍍の1億分の2の長さしかない。このサイズの差から両者を分離することは不可能だ。
配位高分子 着目
そこで原子力機構では、金属イオンと分子で構成される3次元構造(配位高分子MOF)に着目した。MOFは、特定の金属イオンと分子を混ぜ合わせると、金属イオンが留め具、分子が柱の役割をして、オングストロームサイズの孔が空いたジャングルジム状の3次元構造物をつくる。
原子力機構ではMOFの留め具となる金属イオンとして、イオンサイズが変化する8種類の希土類金属群を利用。これを用いてMOFを合成し、その細孔サイズを解析したところ、0.1オングストローム以下で孔のサイズが段階的に変化した(図)。
この一連のMOFで放射性SrイオンとCaイオンの分離を行ったところ、最も効率的にSrを分離する孔を持つMOFを発見。この材料は既存の技術の約5倍の分離能を示した。さらにMOFに捕集した放射性Srを簡単に取り出して再回収できることも確認し、画期的な元素分離回収材料を実現した。
環境浄化に応用
イオン選択的分離回収法は一般的ではない。しかし、この研究で開発した微細サイズ制御の方法はその他の有害金属イオンや、希少金属の回収などにも応用できる。この知見は、世界の環境浄化や資源有効化に貢献できる可能性を秘める。