029 低放射性廃液を固化
掲載日:2023年6月6日
安価で強いセメント利用
導入を計画中
セメントは安い上に、十分な強度と長期にわたる安定性をもつ。このため原子力分野では、固体廃棄物の固形化材として広く用いられている。なお日本原子力研究開発機構の東海再処理施設の低放射性廃棄物処理技術開発施設(LWTF)では、低放射性廃液をセメントで固化する設備の導入を計画中だ。この技術は建設分野で有機質土を用いたセメントを製作する際の技術的知見に寄与できる可能性をもつ。
廃液をセメントで固化するこの計画には、二つの課題がある。その一つが、均一性の確保だ。LWTFでセメント固化する廃液はアルカリ性が強く、普通のセメント材だと硬化が早過ぎるため十分に混ぜ合わせる「混練」ができず、均一なセメント固化体を作れない。
高炉スラグ利用
これを解決するため、セメントの硬化反応を緩やかにする高炉スラグ(鉄鉱石に含まれるシリカなどの成分が石灰石と結合したもの)をセメント材に混ぜて固化することを考案。これを検証するため、模擬廃液を用いて、ビーカー規模での試験を実施した。
次に、その成果を踏まえて実機と同スケールでの工学規模での試験を実施。水とセメントの重量比や廃液の主成分である炭酸ナトリウムの割合を調整しながら混練試験を実施したところ、その翌日に硬化し、浮き水がないことを確認した。また、混練から1年を経過した後でも、セメント固化体が十分な圧縮強度をもつことを確認した。これにより、高炉スラグを混ぜたセメント材によるセメント固化の技術的見通しを得た。
もう一つの課題は、低放射性廃液中に微量に含まれる有機物のリン酸トリブチルなどの不純物のふるまいだ。これがセメントの硬化反応を遅らせることがある。
このため、実廃液の不純物濃度が設計値より大きく変動した場合の影響を確認するため、不純物をパラメーターとした模擬廃液を用いた試験を実施し、不純物のふるまいを管理するためのデータの拡充を図っている。
重要な取り組み
LWTFにおける低放射性廃液のセメント固化技術の導入は、東海再処理施設の廃止措置を進めるうえで、リスク低減につながる重要な取組みの一つだ。
なお、セメント固化における有機物の不純物の影響は、建設分野の地盤改良時において有機質土などを用いたセメントを製作する際の技術的知見の拡大に寄与することが期待される。