原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

028 核物質の軽量分析

掲載日:2023年5月30日

再処理廃止措置技術開発センター 施設管理部 分析課
 河野 壮馬

主に核物質の計量分析に関する分析業務に従事。東海再処理施設で取り扱ってきた分析試料と福島第一原子力発電所のデブリ関連の試料には共通点が多いと考えている。東海再処理施設において、歴代の分析技術者が培ってきた分析の知見を継承、発展させ、東海再処理施設の廃止措置のみならず、福島第一原子力発電所の廃炉にも役立てていきたい。

乾固物標準物質で高精度分析

平和利用を担保

核物質を扱う日本原子力研究開発機構の東海再処理施設においては、核物質が核兵器に転用されていないことを保障することが不可欠であり、計量・保障措置分析が重要な役割を果たす。同施設では、これまでさまざまな分析技術を開発することで日本における原子力の平和利用を担保してきた。

核物質の計量管理の基本は、「入り口」と「出口」の核物質量を正確に評価することにある。しかし、それはたやすいことではない。同施設では、運転開始以降、計量管理の根幹をなす正確な分析を達成するまでにはさまざまな困難に直面し、歴代の技術者は、課題を一つずつ解決し分析技術の高度化に取り組んできた。

例えば、使用済み燃料の溶解液は、「入り口」の核物質量を計量する最重要な試料であり、高い精度が要求される。

そのため、当初から、高精度に分析ができる同位体希釈質量分析法を採用した。しかし、分析値が予想される値から突発的に大きく外れることがあった。その主な原因は、分析に使用していた標準物質の取り扱いの難しさだった。

当初、標準物質(スパイク)は、希少な濃縮同位体元素(233U<ウラン>, 242Pu<プルトニウム>)を含む液体状のもので、保管状態が不安定で遠隔操作での取り扱いが難しかった。また、スパイク中の核物質量に合わせて試料を希釈する必要があり、大きな誤差要因となっていた。

誤差要因除く

このため、235Uと239Puを含み試料の希釈が不要で安定保管が可能な乾固物状態のスパイクを採用。これにより、多くの誤差要因が排除され、分析の不確かさ0.1%以下という、安定かつ高精度な分析を達成した。

また、東海再処理施設では、国際原子力機関(IAEA)の保障措置分析技術の高度化にも貢献してきた。IAEAによる廃液中のPuの検認では、当初、IAEAは、試料をオーストリアへ輸送して分析しており、オンサイトで検認できる分析手法が求められていた。そこで、試料に基準物質としてネオジムを添加して濃度を測定する手法を開発した。これにより、IAEAが測定機器や分析手順の健全性を担保するとともに、迅速に検認できるようにした。

分析ニーズ対応

東海再処理施設の廃止措置段階においては、核物質以外の放射性核種の分析も求められ、これまで培ってきた分析の知見を発展させ、多様な分析ニーズにも応えている。また、これらの分析技術を、民間事業者の技術支援や福島第一原子力発電所の廃炉にも役立てていきたい。