原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

027 再処理の革新技術

掲載日:2023年5月23日

再処理廃止措置技術開発センター ガラス固化部 ガラス固化処理課
主査 大髙 光

白金族元素の沈降・堆積については日本原燃と技術交流を今も継続中で、双方の施設で得られた知見を共有している。 商用再処理工場が運転を開始すれば、国内にある1万8000㌧の使用済み燃料の再処理が進む。私たちが手がけている技術開発が核燃料サイクルの確立の一助となることを期待している。

白金族元素沈降を抑制

ガラスで固化

高放射性廃液をガラスで固めて閉じ込める。これが再処理の核心技術だ。日本原子力研究開発機構の東海再処理施設のガラス固化技術開発施設(TVF)では、このガラス固化技術に25年以上にわたって取り組んでいる。

ガラス固化技術開発のパイロットプラントであるTVFでは、使用済み燃料の再処理により発生した高放射性廃液をガラス原料と混ぜ、溶融炉の中で約1200度C の高温で溶かす。溶けたガラスは炉の底のノズルから抜き出し、ステンレス製の容器へ注入してガラス固化体になる。ガラスを加熱する際に、炉内の電極からガラスへ電流を流し、ガラス自身に発生するジュール熱を利用するのがTVFの溶融炉の特徴である。

ガラス固化の歴史は、ルテニウムに代表される白金族元素との闘いだ。廃液に含まれる白金族元素は溶融ガラスへの溶解度が低く、その多くが合金や酸化物の結晶として析出する。これらは比重が大きく粘性が高いため、炉内に沈降して堆積してしまうと抜き出すことが難しくなる。

安定運転に影響

また、ガラスより電気抵抗が低く、ガラスを加熱するはずの電流が堆積物へ迂回してしまい、本来のガラスの溶融に寄与する熱量が減少するため、溶融炉の安定運転に大きな影響を及ぼす。

私たちはこれまで、こうした課題を克服するために数々の試験を繰り返し、知見を蓄積してきた。過去には堆積物が成長し過度に電流が集中した結果、電極の一部を痛めたこともあった。こうした経験を積み重ね、白金族元素の沈降を抑え、抜出し効率の良い溶融炉の構造や運転方法、白金族元素の堆積の検知手段などを開発、蓄積してきた。

それでも長く運転すると、堆積物が徐々に成長する。これに対しては、機械的に「はつる」ための除去装置を開発して除去することで、着実にガラス固化体の製造を行ってきた。

新型炉へ更新

TVFでは1995年から累計354本のガラス固化体を製造した。溶融炉は2基目となる。現在は白金族元素の抜き出し性の向上が期待できる円錐炉底形状を採用した新型溶融炉への更新を計画中だ。

これらの開発や運転を通じて蓄積したガラス固化技術は、日本原燃の再処理工場に反映されている。我が国のガラス固化のパイオニアとして、より確実なガラス固化技術を目指して、これからもTVFでの闘いは続く。