原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

023 安価な放射線測定器

掲載日:2023年4月25日

原子力科学研究所 放射線管理部
次長 谷村 嘉彦

放射線計測技術や放射線測定器用校正施設の研究開発に従事している。ここ数年は施設の管理業務に伴うデスクワークに割かれる時間が増えているが、積極的に現場に出動してチャレンジングな放射線測定を実践することを心がけている。趣味は放射線を測ること!と自負している。

専門知識不要、家庭用に

不安を一掃

日本原子力研究開発機構は簡単に放射線を測ることができる安価な測定器を開発した。家庭用に常備することで、放射線に対する理解や不安の払拭に役立つことが期待できる。私たちの身の回りには宇宙、地表面、大気中のラドンなどからの自然放射線が存在し、常にこれらの放射線を受けている。しかし、放射線は五感で感じることができず、それが潜在的な不安の一因となっている。

その放射線は専用の測定器で測ることができるが高価で操作が難しいため、一般に普及することはなかった。

一方、1999年9月に茨城県東海村で発生したJCO臨界事故では、周辺に住む多くの人々にとって、自分たちがどの程度の放射線にさらされているかを知る手段がなかったため、屋内退避された多くの方に不安を与えることとなった。

そこで原子力機構では、専門的知識がなくても放射線量を測定できる低価格で簡易型の放射線メーターの開発を始めた。放射線メーターは放射線センサー、微小信号増幅器、雑音除去用信号弁別器、ワンチップマイコン、液晶表示部で構成される。この中で肝となるのは放射線センサーであり、長期安定性や価格、入手しやすさの観点から、光センサーとして普及しているシリコンフォトダイオードを選んだ。

必要な性能確保

なお放射線センサーには、γ線やX線のエネルギーが変わっても、正確に測定できる性能が要求される。このため原子力機構では放射線標準施設にあるγ線及びX線校正施設を利用し、開発した製品に必要な性能を確保した。

また、放射線レベルが簡単に分かるように放射線量をバーグラフで表示し、自然放射線量の目安を表したイラストと対比させた。これにより、その数値が異常かどうかが分かるようにした。

音・光で伝える

さらに放射線検出時にはブザー音と発光ダイオード(LED)光で知らせるようにし、電源スイッチのみの操作とすることで、簡単に利用できるようにした。なお市販の電子部品や乾電池を採用することで価格も抑えた。

簡便で安く、かつ信頼性が高いこの家庭用放射線メーターは、残念ながら11年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故前に製品として普及させることはできなかった。今後は身の回りにある自然放射線への理解促進や不安の軽減に役立つことを期待したい。