021 チタン酸塩でSr吸着材
掲載日:2023年4月11日
廃水・河川浄化にも応用
検討・実装進む
福島第一原子力発電所からの放射性汚染水に含まれるセシウム(Cs)の除去については、具体的な検討と実装が進んでいる。一方でストロンチウム(Sr)除去については、改良する余地が残ったままだ。
このため原子力研究開発機構は富士産業(横浜市鶴見区)と共同で、チタン酸塩を使ったストロンチウム吸着材を開発した。金属吸着性能に優れるこの吸着材は放射性汚染水だけでなく、一般廃水や汚染された河川水の浄化にも広く応用できる可能性がある。
汚染水に含まれるストロンチウムは、ゼオライトやチタン酸系の吸着剤などを使って除去されている。しかし現在の吸着剤には効率性や耐久性に改善の余地があるほか、それに含まれる有機物が放射線により分解されて水素ガスが発生するリスクがある。さらに汚染水の中にはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)が含まれ、それらによってストロンチウムを選択的に吸着することが難しい場合がある。
試行錯誤
このため原子力機構では、これまでと立体構造が異なるチタン酸塩の合成に着手。試薬量や混合手順、乾燥温度を系統的にテストして試行錯誤した結果、従来のものよりストロンチウム吸着量が多く、かつ高いストロンチウム選択性を持つ新しいタイプのチタン酸塩の合成に成功した。
次にこのチタン酸塩を吸着材に加工することを目指し、無機物でかつ高い強度を持つ多孔質シリカビーズに着目した。シラノール反応という化学反応を利用し、多孔質シリカビーズ表面にチタン酸塩を修飾するために、試薬の選定や最適な濃度の探索、工程の最適化を繰り返して吸着性能、耐久性、ハンドリング性に優れた吸着材を創出した。
さらにこの吸着材は、コバルト(Co)も吸着できることを新たに発見した。これにより一般廃水や汚染された河川水に含まれる金属の浄化にも、この吸着材を応用できる可能性が開けた。
多用途向けに改良
現在はこの吸着材の幅広い応用に向けて、多くの種類の金属元素の吸着能力を一つずつ丁寧に調べるとともに、用途に応じた吸着材合成方法の改良を検討している。また、使用済み吸着材の保管や処分方法の検討も進めている。
さらに工学規模での合成フローの設計にも成功しており、今後は社会実装に向けて用途の拡大とともに、大量合成を視野に入れている。