原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

019 小型化で発注コスト減

掲載日:2023年3月28日

東濃地科学センター 地層科学研究部年代測定技術開発グループ
任期付研究員 神野 智史

専門は原子物理。これまで原子衝突やレーザープラズマに関する研究を行ってきた。一昨年に東濃地科学センターに着任し、超小型AMSの開発に従事している。最近はイオン分子反応を用いた目的原子抽出の研究にも着手。異分野業界で、自身の専門性を融合した研究を進めていきたい。

加速器質量分析器

バイオ割合測定

遺跡や地層ができた年代を調べるのに使われているのが、加速器質量分析器(AMS)だ。これは5730年ごとに半減する放射性同位体である炭素14の比を測定することによって、年代を推定できる。ただし、炭素14と同じ質量数をもつ分子(炭素13や炭素12の水素化物)と区別するため、これらの粒子を加速して原子衝突させ、炭素14だけを透過させるフィルターが必要になる。

一方、プラスチックでは現在、石油ではなく、植物などを原料とするバイオマス素材から作られるバイオプラスチックの利用が進みつつある。これは燃やしても、そこで発生する二酸化炭素(CO2)はもともとの植物が成長する過程で吸収したCO2であるため、大気中のCO2濃度を増加させない。

なお今のプラスチックには、石油由来の素材とバイオマス素材が混合されたものがある。その割合(バイオベース度)を測定できるものとして注目を集めているのが、AMSだ。数百万年以上前にできた化石燃料素材の物からは炭素14が検出されず、植物素材の物と見分けることができるからである。

原子衝突

しかしながら、AMSは国内にはわずか15基ほどしかない。普及しないのは、従来型の多くの装置が10㍍以上の大型で、かつ放射線管理区域を設けて管理しなければならないことによる。

このAMSの小型化のカギを握るのが、冒頭に述べた原子衝突を用いたフィルターだ。従来の方法では、小型化に限界がある。このため私たちは、原子衝突に代わる結晶表面の電子や原子との相互作用を応用した結晶表面散乱という方法を用いて、全く新しいフィルター方法を着想し、国際特許を取得した。

この方法だと、分析能力を維持したままで従来の50分の1のサイズ(2メートル四方)まで小型化することが可能になる。加速電圧も従来の100分の1の4万ボルトにまで下げることができるので、放射線管理区域も必要としない。現在は、測定に最適な条件の探索、表面散乱過程のモデル構築に向けた取り組みを行っている。

脱炭素化 貢献

なお、国際標準化機構(ISO)ではタイヤやゴム製品を輸出する際には、バイオベース度を表示する必要がある。この装置が実用化でき、各社がAMSを持てるようになれば測定発注コストが削減でき、同時に脱炭素にも貢献することが期待できる。