原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

016 中性子で「ひずみ」評価

掲載日:2023年3月7日

物質科学研究センター 階層構造研究グループ
グループリーダー 菖蒲 敬久

「中性子施設や放射光施設などの国の施設=難しい研究やノーベル賞を目指す研究のための施設」と思われがちですが、実際には身近な問題解決のために使われています(詳細は、ホームページをご参照ください)。製品化の障害の一つとなっている「ひずみ」や「応力」を細かく調査したい方がおりましたらご連絡ください。

鉄筋コンクリ変形

付着抵抗機構

鉄筋コンクリートは、今の社会の建築物には欠かせない重要な建材・工法である。なおコンクリートは引張力に弱く、鉄筋は圧縮力により湾曲(座屈)しやすく、錆びるという短所があり、鉄筋コンクリートは両者を組み合わせることで互いの弱点を補い合っている。

その性能は、鉄筋がコンクリートの中でどれだけ一体となっているかに影響される。これを付着抵抗機構(接触面での応力伝達機構)と言う。コンクリート内の鉄筋が変形すると、鉄筋とクンクリートの付着力が低下するため、その変形の割合を表す「ひずみ」を調べることで、鉄筋コンクリートの付着抵抗を評価できる。

これを調べるのに使われているのが、中性子だ。中性子はX線同様、対象物を非破壊非接触で分析できる。透過力が非常に強いため、コンクリート中の鉄筋のひずみも、ブラッグの式を基本とする回折法を使って計測できる。

メカニズム推定

図は鉄筋を引っ張った状態のコンクリート内部の鉄筋のひずみ分布を表す。表面に近い右側では強い引っ張りひずみが発生し、表面から離れた内部ではひずみがほとんど発生しない。

これは、鉄筋に加わっている荷重がコンクリート全体にしっかり分散しているためである。

ただ、現時点での鉄筋コンクリートにおけるひずみ計測はまだ、緒についたばかりだ。今後は中性子イメージングの適用を工夫することにより、付着具合によるひずみ分布の違いや、内部の割れと節形状の位置を明らかにすることができれば、そのコンクリートのひび割れがどうやってできたかという発生メカニズムまで推定できる可能性をもつ。

尽きない疑問

このほか鉄筋の節のあるところとないところや表面と中心、といったより細かいところで差は発生するのか?さらにコンクリート自体のひずみはどうなっているのか?コンクリートの部材に後から鉄筋を挿入する「あと施工アンカー」では、使用される鉄筋とコンクリートを固着している接着剤のひずみはどうなっているのか?もともと接着剤の施工不良は発生していなかったのか?施工現場で計測できないものか?などはこれからの課題であり、興味は尽きない。

これらの「疑問」を、中性子だけでなく放射光やレーザーなどさまざまなツールを活用することで、原子力の社会貢献というニーズに応えるための技術開発を引き続き行っていく。