015 母材金属溶かさず処理
掲載日:2023年2月28日
放射性廃棄物の除染
量を最小化
原子力技術はエネルギーをはじめとして学術や産業、医療分野などで大きな貢献をしている。一方で、役目を終えた原子力施設の廃止措置では、膨大な量の放射性廃棄物が発生する。その量を最小化することは、とても重要な課題だ。
そのカギを握るのが、除染技術である。廃止措置では、放射性物質に汚染されたさまざまな固体が発生する。このうち、放射性物質が表面についただけのものであれば、それを取り除くことで、本体の固体は放射性廃棄物として処理する必要がなくなり、放射性廃棄物の発生量を大きく減らすことができる。
なお廃止措置が進んでいる日本原子力研究開発機構の人形峠環境技術センターでは、炭素鋼などの鉄系金属廃棄物が発生している。これらの廃棄物のうち表面だけに放射性物質が付着したものに対しては、薬液を用いた湿式除染が行われている。
ただし、長年使われてきた鉄系金属は、表面が腐食や錆で変化し、複雑となった表面構造に放射性物質が付着しているため、薬液が作用しにくい。そのため腐食や錆の層にそれぞれ適した薬液を用いる必要があるが、このような薬液は母材の金属も溶かしてしまうことがある。溶解した金属は薬液と共に放射性廃棄物(二次廃棄物)となる。
酸性電解水
このため、この二次廃棄物の発生量をいかに減らすのかが、技術開発の肝となっていた。そこで私たちは、次亜塩素酸及び塩酸を含む酸性電解水に着目した。実験の結果、次亜塩素酸および塩酸を含む酸性電解水に着目した。実験の結果、次亜塩素酸の酸化溶解、塩酸の酸溶解の効能、そして超音波による衝撃力で、付着した放射性物質を素早く除去できることや、母材の溶解量を減らすことができることを確認した。
さらに水素イオン指数(pH)を調整した酸性電解水、塩酸および硫酸による炭素鋼の除染性能を調べたところ、酸性電解水が1番早く除染することができ、また母材の炭素鋼の溶解量は1番少ないことを見いだした。今後は除染メカニズムを明らかにするとともに、さらに高効率化を目指す。
表面処理に応用
なおこの技術は金属の除染に限らず、洗浄や皮膜除去、エッチングなどの金属表面処理や、次亜塩素酸の酸化力によってオイル、微生物などの有機物の除去にも適用できる可能性をもつ。