原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

013 ガラス固化技術

掲載日:2023年2月14日

物質科学研究センター 研究推進室
室長代理 岡本 芳浩

核燃料、再処理や廃棄物処理に従事。その中で放射光を利用したのをきっかけに、現在はSPring-8のJAEA専用ビームラインに勤務する。専門は高温化学及び放射光XAFSによる分析。原子力基盤研究における放射光の有効利用を目指し、原子力分野の大学院生による放射光施設利用を積極的に支援している。

放射性廃棄物を安定処理

廃液を固化処理

原子力利用を続けていくための大きなカギとなるのが、高レベル放射性廃棄物の最終処分だ。そこでの核心技術は、高レベル放射性廃液を高温でホウケイ酸ガラスと溶融して混合し、ガラス固化体にする過程にある。そのガラス固化体に、より多くの廃棄物を安定的に閉じ込める技術高度化が今、世界中で進められている。

ガラス固化体には、30以上の元素が含まれる。技術高度化を進めるにはまず、それらの元素の局所構造や化学状態を調べる必要がある。このため私たちは、SPring-8に日本原子力研究開発機構が設置した専用ビームラインで、XAFS(ザフス)という分析法を用い、ガラス固化体に含まれる廃棄物成分元素について調べている。

この方法は、物質にさまざまなエネルギーのX線を照射した後に、その物質がX線を吸収した量の特異性を調べるものだ。照射によってどんな元素がどのようにふるまうかを詳細に調べ、その結果を固化体の開発現場にフィードバックしている。

現場ニーズ反映

ガラス固化体の研究にXAFSを使う分析は海外でも行われている。しかし私たちは、開発現場のニーズをくみ上げ、ガラス中の白金族元素の化学状態だけでなく、空間分布に対する相関情報の分析も手がけた。

これを実施するために、XAFSデータを2次元的に拡張するイメージングXAFS技術を、ガラス固化技術高度化のために特化して整備。これを使い、白金族元素の分布に化学的な相関があることを見いだした。これにより、ガラス固化溶融の過程で白金族元素が溶解ガラス中に凝集することを抑制し、より多くの廃棄物を溶融する手がかりを得た。

私たちはさらに、照射X線で試料から発生する蛍光X線を調べる蛍光X線分析(XRF)や、照射X線の散乱や干渉した結果を調べるX線回折(XRD)にXAFSを組み合わせたマイクロXAFS/XRF/XRD同時測定系を整備して、固化体の開発現場に提案している。これがうまくいけば、元素の局所分布や化学解析がより詳細にできる。

放射光分析 向上

こうしたガラス固化技術の高度化は放射光分析技術そのものの高度化をもたらす。さらに自動車鋼板の残留応力解析や半導体デバイス中の元素の磁気特性評価、あるいはたんぱく質の単結晶構造解析など幅広い分野に貢献することが期待できる。