原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

008 レーザーアシスト分離法

掲載日:2023年1月10日

物質科学研究センター アクチノイド科学研究グループ
研究主幹 横山 啓一

レーザー同位体分離の研究、円偏光ルミネッセンス分光器の開発に従事。ここで紹介したレーザーアシスト分離法のコンセプトは30年ほど前から原子力機構で研究されており、今回、ようやく原理実証にたどり着いた。この技術が、高レベル放射性廃棄物の管理に対するブレークスルーになることを期待している。

混合物から特定物質除く

吸収波長に違い

高レベル放射性廃液に含まれる長半減期のアメリシウムなどを分離できれば、地層処分場の管理期間の大幅な短縮が期待できる。しかし、それを化学的な方法で分別することは難しい。このため私たちは、原子ごとに光の吸収波長が異なることに注目し、特定の波長のレーザーを使うことでアメリシウムだけを反応させ、分離できる原理を実証した。

この方法が実用化できれば、超強力磁石の材料として注目されるレアアースの超高純度精製への道を拓くことも可能になる。

有機溶媒で抽出

混合物から特定の物質を分離するためにはふつう、溶け込んでいる物質の性質の違いを利用する。沸点や融点が異なる場合には、温度で分離するのがその例だ。

この物質の性質の違いを分子レベルでみると、分子の大きさや構造、電子の授受のしやすさなどの化学的性質の違いとなる。だから、これらの性質が似ていた場合、簡単には分離できない。高レベル放射性廃液に含まれるアクチノイドと呼ばれる元素群からアメリシウムを分離することが難しいのも、そこに理由がある。

このため私たちは、原子ごとに光の吸収波長が異なることに着目。廃液を模擬するためアメリシウムイオンとプラセオジムイオンが含まれる硝酸水溶液を用意し、そこにアメリシウムが共鳴しやすい波長のレーザーパルスを照射した。その結果、アメリシウムの酸化状態が変化し、これに有機溶媒を混ぜたところ、アメリシウムだけを抽出することができた。

化学的性質 変化

ここで採用したレーザーアシスト分離法の仕組みを、紹介しよう。物質を構成する原子はいくつもの電子をまとっている。化学的性質を決めているのは、最も外側にある電子で、その数や電子軌道の大きさが似ていると化学的性質も似たものになる。

ところが、これらの元素群では内側の電子の数が異なり、光の吸収波長も異なる。だから、特定の波長の光を照射すれば、それらの元素を識別できる。とはいえ、単純な光吸収では化学的性質は変化しない。

このため私たちは、1段目の光吸収で元素を選択し、さらに2段目の光吸収で化学的性質を変化させることに成功。新しい分離原理を実証した。

今後は光電場や抽出条件の最適化に加え、レーザーの高効率化・高出力化を進めて、実用化をめざす。