原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

004 革新材料で環境問題解決

掲載日:2022年12月6日

物質科学研究センター 階層構造研究グループ
研究副主幹 関根 由莉奈

高分子や水、無機物の微細構造評価に関する研究を行ってきた。これまでに培ってきた知識や経験を生かし、再生可能素材の利用に焦点を当てた独創性の高い材料開発研究を展開している。とりわけ社会ニーズを意識し、社会貢献性が高く、国際競争力のある材料やシステムの実現に向けた成果を生み出したい。

CNF構造制御

木材から抽出

軽くて丈夫なプラスチックは、とても便利な素材だが、自然に分解されないために環境問題が懸念されている。その解決方法の一つとして提案されているのが、木材から抽出されるセルロースナノファイバー(CNF)の利用である。

CNFは木材を細かくほぐして、ナノレベルのセルロースにしたものから作られる。自然界にあるさまざまな種類の草木の骨格は、セルロースを主成分としている。セルロースからなるCNFも、目に見えないほどの小さいスケールでその構造を多様に制御することができれば、これまでになかったような革新的特性を持つ材料を創り出すことが可能になると考えられる。

凍結で凝集

日本原子力研究開発機構ではこれまで、CNFや天然高分子をミクロスケールで構造制御することで、新しい機能の発現を目指した研究を行ってきた。その成果の一つが、凍結現象を活用した新しい構造制御法である。

高分子や糖など揮発しない溶質を含む水溶液を凍らせると、氷結晶と溶質は完全には分離せず、氷晶界面(氷結晶の境界)に溶質の凝集層ができる。しかし、それは氷が溶けると消える。

私たちは、凍った時だけ現れるその凝集構造を固定化できれば、新しい物性が現れるのではないかと考えた。CNF溶液を凍らせた凍結体に水素イオン指数(pH)調整剤を添加してCNF同士を反応させることで、氷が溶けた後でもCNF凝集相を維持させることに成功した。

これにより圧縮凝集したCNF層が反応し、水素結合の階層的な配列が生まれ、材料強度が20万倍以上も向上した。この方法は凍結架橋法と名づけられ、CNFだけではなく天然高分子素材にも適用できることを確認し、今も精力的にさまざまな材料開発を行っている。

高校と連携

また、この研究では高槻高校のスーパーサイエンススクールプログラムと連携。高校の先生や学生とミクロスケールの分子構造と構造変化によって現れるさまざまな物性を観察しながら科学の理解を深めるとともに、材料開発を進めている。環境問題の解決と、画期的な材料開発をめざすとともに、この分野での次世代の科学者の活躍を強く期待している。