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第12回 原子力機構報告会
「原子力の未来 ―原子力機構の挑戦―」

99番元素アインスタイニウムを用いた重元素核科学研究 (テキスト版)

99番元素アインスタイニウムを用いた重元素核科学研究
原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素核科学研究グループ
研究副主幹 オルランディ・リカルド

御紹介、どうもありがとうございました。原子力機構のオルランディ・リカルドと申します。99番元素アインスタイニウムを用いた研究について発表いたします。4年前、原子力機構で働くためにイタリアから日本に参りました。本日の発表は、お聞き苦しいかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) 米国エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所との協力で、原子力機構が0.5µgの人工元素アインスタイニウムを特別に入手しました。アインスタイニウムの取り出しは、米国でも2003年以来のこととなり、日本がそれを入手するのは初めてです。原子力科学研究部門の先端基礎研究センター、物質科学研究センター、原子力科学研究所では、このアインスタイニウムを用いた以下の研究を計画しています。

東海タンデム加速器での実験では、100番元素フェルミウム以上の重い原子核の核分裂と核構造の解明と、SPring-8の大型放射光施設では、アインスタイニウムと水分子との結合の仕組みを明らかにする予定です。いずれも原子力機構の施設と独自に開発した装置を利用した研究です。

時間が少ないので、発表では核分裂実験について発表いたします。SPring-8での実験は、ポスターにて紹介されております。

P) 御存じかもしれませんが、初めに幾つかの基本概念を説明いたします。原子は、原子核と電子から成り、電子が核の周りを動きます。電子軌道の半径に比べると、原子核のサイズはとても小さくて、1万分の1程度です。例えば原子核の大きさが梅干しと同じだとすると、原子は野球場ぐらいの大きさになります。原子核は陽子と中性子でできており、陽子の数によって元素が決まっております。陽子と中性子を足した数を質量数と言います。陽子の数が同じで質量数が違う原子核を同位体と言い、同じ元素でも複数の同位体が存在します。

入手したアインスタイニウムは、陽子数は99、中性子数は約55、質量数が254なので254Esと言われます。

P) 物理学者アインスタインの名に由来するアインスタイニウムは、1952年に水爆実験の過程で発見されました。現在においては、研究用原子炉中での燃料照射によって生成されています。

周期表にある元素は、ウランまで自然界に存在するのですけれども、ウランより重いものは、全て人工元素です。アインスタイニウムはウランより陽子の数が7つ多くて、物理学実験のための標的試料として人類が利用できる最も重い元素です。しかし生成できる量が少ないので、アインスタイニウムの特性はほとんど解明されていません。米国エネルギー省が、重元素核化学分野における原子力機構の研究成果を高く評価し、アインスタイニウム等の特性解明を期待して、特別に提供することを決めました。

254Esの半減期は276日と短く、半年のうちにほぼ40%がなくなるので、速やかに実験を進めます。

P) オークリッジアイソトープ生成用原子炉において、40gの96番元素キュリウム同位体をこちらのプールに入れて、1年近く中性子照射しても、わずか1µgしか生成できません。1µgは非常に少量で、大体1粒の塩の1/50の重さです。アインスタイニウムは先月に届き、来月から実験が始まります。

P) ちょうど9月に日本物理学会が「物理学70の不思議」という付録を出版しました。アインスタイニウムを用いた私たちの研究は、原子核の形と核分裂のダイナミックスという不思議に直接つながっています。

P) 核分裂は1938年に発見され、4年後フェルミらは最初の原子炉で臨界を達成しました。核分裂は、重要なエネルギー生成はもとより、研究用原子炉等を通じて基礎科学を支えます。核分裂現象の深い理解と新現象の発見は、社会基盤や知の探究にまで、例えば宇宙における元素合成過程や超重元素の存在限界にまで影響を及ぼします。

P) 多分最も知られている核分裂は、原子炉の中で起っているウランの核分裂です。235Uが1つの中性子を吸収し、236Uになって2つの原子核に分かれます。さまざまな核分裂事象を観測し、核分裂生成物の質量数を測定すると、この2山の質量分布にまとめることができます。横軸は質量数、縦軸は質量収率です。

1970年代後半、100番元素フェルミウム同位体の核分裂で、質量分布が劇的に変化することが発見されました。フェルミウム同位体254、256、257までは質量分布がウランのように2山ですが、中性子をたった1つ加えるだけで、258Fmでは、突然1山になります。この非対称から対称な核分裂モードへの急激な遷移を、従来の考え方では理解することができません。フェルミウム以上の重い原子核の核分裂を解明することにより、ウランを含むあらゆる原子核の核分裂を理解することを目指します。

P) 実験的には、どういうふうに核分裂が起こるかという1つの例ですけれども、加速した18Oをアインスタイニウムに照射し、一部の中性子や陽子をアインスタイニウムに吸収させ、258Fmのような重い原子核を生成し、その核分裂を観測します。陽子と中性子の移行パターンにより、1つの実験で15原子核に及ぶデータを取得することができます。さまざまなアクチノイド標的と、独自に開発した装置を利用して、私たちの研究は重い元素かつ中性子数の多い原子核の核分裂の測定手法を開拓しています。

これまでの結果を、この核図表に紫色で示しました。横軸は中性子数、縦軸は陽子数です。

こちらの重い原子核の領域では、この質量分布の2山と1山の境界があると予想されています。アインスタイニウム標的と新たな測定手法を利用して、この境界の両側にある原子核の核分裂を研究することができます。アインスタイニウムを用いた新しいデータを取得することにより、質量分布の劇的な変化の原因を説明できるようになります。

P) 実験は東海村の原子力科学研究所にあるタンデム加速器で行われます。このタイプの加速器としては、東海タンデムが世界最大の電圧を与えることができます。ウランやプルトニウムのような放射性アクチノイドを標的として使え、またビームの空間的な広がりを1mmに抑えることができるため、0.1µgのような非常に少量の標的試料であっても実験ができます。アインスタイニウムの重イオンを照射する実験が可能なのは、世界でも原子力機構だけです。

P) 加速したビームをこちらの実験室に輸送して、アインスタイニウムを照射します。アインスタイニウム標的と18Oのビームによりさまざまな種類の原子核をつくることができます。例えばこの図では、酸素のビームから1つの陽子と3つの中性子をアインスタイニウムに移行して、258Fmが生成され、18Oが14Nになっています。その窒素をこちらに示した粒子検出器で識別します。同時に、258Fmが分裂し、その2つの核分裂生成物をガスチェンバーで観測し、そのような事象を幾つも測定することで、258Fmの質量分布を導出します。

P) この地図にて、共同研究機関を紹介いたします。現段階でのリストですが、外国からも興味を持ってもらっていて、これからもふえていくと思われます。

アインスタイニウムを用いた実験を通じて、原子核の振る舞いの中で最も難解な現象となっている核分裂の理解に、大きな進展をもたらしたいと思っております。御清聴、どうもありがとうございます。