独立行政法人日本原子力研究開発機構：JAEAメールマガジン　No.288

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核データ測定のフロンティア　－キュリウム244の中性子捕獲断面積測定－

原子力基礎工学研究部門　応用核物理研究グループでは、J-PARCで供給される世界最高強度のパルス中性子を用いて、従来測定が困難なためデータが不十分であった放射性核種の中性子捕獲断面積の測定研究に取り組んでいます。
　中性子捕獲断面積とは、中性子が原子核に捕獲される原子核反応の起こりやすさを表す物理量です。その単位は「バーン(barn)」と表されます。これは10^-24cm²という値で、まさに、物質の最小単位である原子の中心にある原子核の断面積ほどの小さな値です。放射性核種を核反応により変換させ、環境負荷低減に資する核変換研究において、中性子捕獲断面積は特に重要な物理量で、高精度で信頼性の高いデータが求められています。
　放射性核種の中性子捕獲断面積を測定するために、中性子核反応測定装置が、J-PARCの物質・生命科学実験施設に開発・設置されました。この装置は、英語名「Accurate Neutron-Nucleus Reaction measurement Instrument」の頭文字を取って「ANNRI」という愛称で呼ばれています。中性子核反応を捕らえるために、ANNRIを構成するガンマ線測定装置として、大型GeスペクトロメータとNaI(Tl)スペクトロメータが設置されています。これらは、世界の同種の施設で使用されている検出器と比較して、ガンマ線のエネルギー分解能が格段に高いという利点があります。世界最高強度のパルス中性子を適用できることと相まって、ANNRIは、世界に類を見ない核データ測定装置となっています。
　最近ANNRIを用いて、キュリウム244同位体の中性子捕獲断面積が測定されました。この核種は半減期が18年と、ウラン238などに比べ桁違いに短く、単位質量当たりの放射能が大変強くなるため測定が困難であり、これまで地下核実験による測定値しか報告されていませんでした。このように半減期が数十年という短い放射性核種の中性子捕獲断面積の測定は、世界的にも同種の施設で行われた例がありません。当グループでは、ANNRIにおいて、1mg以下の少量サンプルを用いた実験を、高エネルギー分解能の大型Geスペクトロメータを用いて行い、データの信頼性を高めたばかりでなく、測定誤差を低減するための技術を開発することにより、中性子捕獲断面積の高精度化を実現しました。
　この結果は、国内のみならず国外でも高く評価され、平成24年度原子力学会賞論文賞を受賞しました。
　現在ANNRIでは、核データ測定研究の他、宇宙核物理や核種分析分野の研究にも適用が開始されています。大強度パルス中性子を適用した中性子核反応の研究手法を基盤に、これらの分野のフロンティアを目指して研究に取り組んでいます。

※詳細は原子力基礎工学研究部門　応用核物理研究グループのHPをご覧ください。
　　　http://nscience.jaea.go.jp/

（原子力基礎工学研究部門　応用核物理研究グループ）