経済産業省資源エネルギー庁委託事業 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 地質環境長期安定性評価確証技術開発

地質環境長期変動モデルの開発

研究概要
地質環境長期変動モデル(GEMs)の構成

これまでに個別に進めてきた地形・地質モデル,水理モデル,地球化学モデル,地表環境モデルを統合して,過去から現在までの地質環境の長期的な変化を表現できる三次元地質環境長期変動モデル(Geological-evolutionary models, GEMs)の開発を進めます。個別モデルの統合化やこれらの数値化にあたっては,先端計算科学技術や先進可視化技術を可能な限り取り込んでいきます。また,モデルを検証するための方法論や不確実性を定量化するための技術開発も併せて実施します。

地形・地質モデル
地形の進化

地層処分における将来の自然現象に伴う地質環境の予測・評価は,過去の自然現象の偏在性や変動傾向に基づき,将来へ外挿することが基本となります。一般に,日本列島では過去十万年程度の地形学的情報が多くの地域で得られることから,それらの情報に基づき将来数万年程度の地質環境の変化については予測・評価が可能となると考えられています。しかしながら,地史や地質構造発達史などに関する従来の地質学的研究では,場合によっては数千万年以上の時間スケールを対象とした概念モデルの構築に止まっており,水理モデルや地球化学モデルの構築に必要な精度のモデルはごく限られた事例に止まります。ここでは,地形や地質構造の発達に関わる既報データが比較的豊富な地域を事例とした地形・地質データの収集・整理によって,百万年以上の時間スケールでの地史(テクトニクス)を検討します。さらに,古地形の推定及び地質・地質構造の復元を行い,地形・地質モデルを構築します。

水理モデル
地下水流動解析の結果

地層処分システムにおいて重要な地質環境特性の一つである地下水流動特性の時間変化を評価する上では,地下水流動解析などに基づいて水理モデルを構築する必要があります。水理モデルの構築に際しては,地下水流動特性に与える影響因子を抽出するとともに,それらを考慮した,解析領域の設定→水理特性の空間分布を表現した水理地質構造モデルの構築→地下水流動解析という流れで実施され,それぞれの影響因子のモデル化・解析への反映方法や,地下水流動解析を行う際の時間断面の設定方法などを検討する必要があります。ここでは,事例地域における水理データを収集・整理するとともに,「地形・地質モデル」をベースに古気候・古環境を考慮した水理パラメータの設定及び数値モデルを作成します。また,数値モデルを用いた地下水流動解析を試行しつつ,過去から現在までの水理ポテンシャルや流動系の変化を明らかにします。

地球化学モデル
地球化学的プロセス

地層処分の安全性に影響を与える地下水の地球化学特性として,主に地下水の塩分濃度,pH 及び酸化還元状態が挙げられます。一般的に地下水の地球化学特性は,地下水流動に伴う複数の異なる水質の地下水の混合や岩盤中での水-鉱物-微生物相互反応などにより形成されます。そのため,地球化学特性の長期変遷を推測するためには,地下水流動に関わる諸現象や長期的な水-鉱物-微生物相互反応プロセスを理解する必要があります。ここでは,事例地域における地球化学データを収集・整理するとともに,「地形・地質モデル」,「水理モデル」をベースに水-鉱物-微生物-ガス相互反応などの地球化学解析に基づき,過去から現在までの地下水の水質,pH 及び酸化還元状態などの変化を明らかにします。

地表環境モデル
物質の移動

地層処分システムの性能評価においては,自然現象に起因する地表環境及び人間の生活様式の状態変化が,地表環境の構成要素やそこでの核種移行プロセス,被ばくの形態にどのような影響を与えるかを整理し,評価結果にどの程度の影響を与えるかを例示しておくことが重要となります。ここでは,地形や気温,水収支などの長期的な変化が生活圏での物質移行に影響を与える因子を抽出し,適切な地表環境の状態と変化を設定する上で留意すべき点を整理するとともに,古地形・古気候・古環境の復元に基づく地表環境の変遷をモデルに反映するための方法論を構築します。

統合数値モデル化,モデル検証及び不確実性の検討
様々なモデルの統合

従来の地質環境モデルは,地質や水理,地球化学など,個別の分野ごとに構築されてきました。しかし,地下水流動の駆動力である動水勾配は,地形の変化に伴い変化するように,これらは相互に関連しています。そのためここでは,地形・地質モデル,水理モデル,地球化学モデル,地表環境モデルを統合した三次元地質環境長期変動モデル(GEMs)を構築します。その上で,室内試験,原位置試験によって得られた地下水や亀裂充填鉱物などの地球化学的性状や放射年代値などのデータによってモデルの信頼性を検討するとともに,データ取得からモデル化に至る一連のアプローチに内在する不確実性を定量化するための手法を開発します。