平成15年12月16日
核燃料サイクル開発機構
敦   賀  本   部
新型転換炉ふげん発電所のトリチウム除去装置建屋における
火災警報の発報について(原因と対策)

 9月8日に発生した標記トラブルにつきましては、これまでに発生及び調査状況等を発表してきておりますが、今般、原因の究明が終了し、その対策について取りまとめ、関係箇所への報告を行いましたので発表いたします。
 なお、敦賀地区全体の安全管理徹底に対する取り組みにつきましては、役職員全員が一体となって継続しています。

 新型転換炉ふげん発電所は今年3月29日に運転を終了し、現在、第18回定期点検作業を行っています。
 標記建屋に設置されているトリチウム除去装置は、重水精製装置建屋の各部屋の空気中のトリチウムを除去する装置であり、重水精製装置は現在運転を停止しておりますが、重水精製装置建屋室内の換気のため運転を行っておりました。
 平成15年9月8日17時06分頃、トリチウム除去装置建屋の1階(管理区域内)の火災警報が発報しました。
 現場の状況を確認したところ、トリチウム除去装置建屋及び重水精製装置建屋の排気をしている排気筒から白煙を確認し、トリチウム除去装置建屋の1階(管理区域内)の後置フィルタのケースが焦げていること及び室内に白煙を確認しましたが、現場に火の気は認められませんでした。
 18時22分に消防署が現場に立ち入り、後置フィルタのケースが焼損していることを確認するとともに、消防署が鎮火していることを18時28分に確認しました。
 本件によるけが人の発生はなく、建屋内の放射性物質の表面汚染密度やトリチウム濃度についても通常レベルで、環境への影響はありません。
 今後、詳細な調査を実施する予定です。         〔平成15年9月8日21時30分記者発表済〕

 9月8日に発生した標記トラブルにつきましては、火災が発生した以降、警察関係及び消防関係の現場検証のため、火災発生現場の維持保全に努めていましたが、9月9日に関係箇所の立会いのもと、焼け焦げていた後置フィルタの内部確認を実施しました。また、運転データや運転操作について調査を行いました。(中略)
 9月8日16時21分の手動停止、同16時46分の再起動及びその後のトリチウム除去装置の運転データを分析した結果、当該装置の運転に関して以下の事が判りました。
 16時21分にトリチウム除去装置を手動停止した時点では、後置フィルタの前段に設置されている吸着塔(A,B2系統)のうち、A塔は5時間の再生加熱が終了し、B塔は処理空気が通気されている状態でした。運転員は、トリチウム除去装置の再起動に際して、塔の再生加熱が終了しているA塔を選択し、16時46分に再起動させました。この時、A塔は再生加熱が終了し、冷却に入ったところであり、塔内の吸着材(モレキュラーシーブ)等の温度は高温の状態であったと推定されます。
 16時46分のトリチウム除去装置の再起動により、未だ高温の状態だったA塔に通気された空気は約270℃に熱せられ、後置フィルタに流れ込んだと推定されます。
                            〔平成15年9月10日16時00分記者発表済〕


1.調査結果
  今回のトラブルでは、装置を再起動した際、再生加熱直後で冷却が不十分な吸着塔を選択した結果、高温の乾燥した空気が後置フィルタに送り込まれたことが火災の原因と推定されるため、以下の調査を行いました。
(1) 機器の外観点検及び開放点検結果
 焼損した後置フィルタ、高温の空気が流れた吸着塔出口から排気筒までの系統及び再生加熱器系統について点検した結果、以下のことを確認しました。
後置フィルタ内部を点検した結果、内部に取り付けられているプレフィルタ及び高性能(HEPA)フィルタすべての焼失が確認されました。
配管、ダクトについて外観点検した結果、後置フィルタ出口以降の配管、ダクトで塗装の変色、剥離等が認められましたが、変形、損傷は認められませんでした。また、後置フィルタ入口までの配管については特に変化は認められませんでした。
再生加熱器を開放点検した結果、異常は認められませんでした。
全8台の弁について、外観点検及び作動試験を行った結果、吸着塔出口弁(AV244-4A)の作動試験で異音が認められましたが、変形、損傷は認められませんでした。
(2) 模擬試験装置によるフィルタ燃焼試験の結果
  吸着塔Aから後置フィルタに流入した乾燥した空気の温度は約270℃と推定されたため、実機を模擬した試験装置によりフィルタの燃焼試験を行った結果、250℃の乾燥した空気を通気した約2分後に、煙(熱分解ガス)の発生を確認しました。(試験は安全性を考慮し、通気を4分で停止)
  4時間後にプレフィルタ及び高性能(HEPA)フィルタを試験装置から取り出して点検した結果、高性能(HEPA)フィルタ中心部から煙の発生と温度上昇(282℃)、フィルタ材の炭化を確認しました。なお、この温度条件においてプレフィルタの燃焼は確認されませんでした。
(3) 運転操作に関する調査結果
 トリチウム除去装置を手動停止した場合、吸着塔が吸着又は再生途中の状態となるため、再び起動する際には、使用する吸着塔を運転員が選択しなければなりません。今回、装置を再起動した際、運転指示を行う発電課(現:設備保全課)運営班重水管理チーム担当者は、再生加熱が終了していたが、冷却が不十分な吸着塔を選択しました。
 このことについて、運転操作手順書の内容、運転管理体制、装置の運転管理に関する教育の内容を調査した結果、以下のことを確認しました。
非常停止後の吸着塔の選択について、運転操作手順書には判断基準となる記載が不明確でした。
運転操作は運転操作手順書に従って行われますが、今回の場合のように手順書の記載において判断基準が不明確な場合、担当者が自ら判断して操作を行っており、判断の妥当性を上位者がチェックする体制になっていませんでした。
発電課(現:設備保全課)運営班重水管理チーム員に対するトリチウム除去装置についての教育は、装置の概要や運転モードの説明、警報設定値などについて記載した教育資料により行われていましたが、吸着塔冷却工程の必要性などに関する知識、注意事項や禁止事項、制限事項など、運転管理上で必要な内容が不足していました。
運転操作手順書を作成する際のマニュアルにおいて、作成した手順書と機器の取扱説明書との整合を図ることや、各ステップの注意事項を安全性、操作性を考慮し記載する旨が規定されていましたが、その具体的な検討が不十分でした。そのため、手順書には運転管理上の注意事項や禁止事項、温度等の制限範囲などに関する記載が不足していました。
(4) 安全装置に関する調査結果
 火災防止、放射性物質の漏えい防止、人的危害防止の観点から、トリチウム除去装置の安全保護装置が十分であるかについて調査した結果、吸着塔選択において下部の温度が高い状態の吸着塔を選択できないようなインターロックが備わっていないことを確認しました。


2.推定原因
  上記の調査結果から、後置フィルタに約270℃の高温乾燥空気が送り込まれて火災が発生した原因は以下のとおりと推定しました。
I  運転員が装置を再起動する際、運転操作手順書に従って行いますが、吸着塔選択について具体的な判断基準が運転操作手順書に定められておらず、判断は実際に運転指示を行う発電課(現:設備保全課)運営班重水管理チーム員に任せられており、その判断の妥当性を上位者が確認する体制になっていませんでした。
II  発電課(現:設備保全課)運営班重水管理チーム員は装置の概要や運転モードの説明、警報設定値等教育資料に基づき教育を受けていましたが、吸着塔の使用条件など装置の技術的事項についての教育が十分でなかったことから、再生加熱直後の吸着塔の方が湿分吸着能力が高く、運転に有利であると判断して選択指示をしました。
III  装置には吸着塔選択において下部の温度が高い状態の吸着塔を選択できないようなインターロックが備わっていなかった結果、装置の起動により後置フィルタに約270℃の高温乾燥空気が送り込まれて高性能(HEPA)フィルタが燃焼し火災が発生しました。


3.対策
  再発防止策として、運転操作手順書、運転管理体制並びに教育面、設備面について以下のとおり改善を行います。

(1) 運転操作手順書
 運転操作手順書には、装置を再起動する際の吸着塔選択について、吸着塔下部温度の確認、吸着塔状態表示画面の確認、確認すべき計器名称および計器番号、盤番号などの吸着塔選択基準を具体的に記載します。
(2) 運転管理体制 
 トリチウム除去装置の運転に関して、指揮等を行っている重水管理チームを日勤当直長の管理下に置き、運転操作において、その場での判断が必要な操作については、チーム員だけで判断するのではなく、日勤当直長等により妥当性をチェックする体制に改善します。
(3) 教育
トリチウム除去装置の運転に関わっている設備保全課・重水管理チーム、設備保全課当直運転員及び協力会社運転員に対して、装置運転に当たって要求される必要な知識について現行の教育資料に反映し、再教育・反復教育を実施します。
(4) 設備
吸着塔選択に関するインターロックの追加
吸着塔下部の温度を検出して、「吸着塔再生完了」となっている吸着塔以外選択できないようにインターロックを追加します。併せて表示灯も「吸着塔再生完了」とし、明確に分るよう改善します。

  なお、焼損した後置フィルタユニットは同一仕様のユニットと交換し、トリチウム除去装置の配管及びダクトについては外表面の手入れと塗装を行い、弁については作動試験で異音が認められた弁も含めて分解点検を行った後、ガスケット・パッキン類を交換し、作動試験で健全性を確認します。
4.水平展開
  今回の事象をふまえ、安全管理の徹底を図るため、今後も運転・運用を継続する設備について、上記の管理面、設備面からの対策の水平展開を図るものとします。
  そのため、10月1日の「ふげん」の所内組織改正に併せて、安全管理体制を見直し、原子炉主任技術者等のもとに、新たな専任スタッフとして運転管理班を設置し、今後も継続して使用する設備について、設備運転操作手順書及び設備・機器の安全装置等の点検を平成15年12月末までに実施するとともにトラブルの発生防止に努めることとします。
(1) 運転操作手順書
 運転操作手順書について、運転操作上の判断基準や考慮すべき注意事項等が具体的に記載されているかを点検し、不備な点があれば改訂します。また、「手順書作成・改訂マニュアル」にチェックシートを導入して手順書作成・改訂時に記載事項に不備が生じないようにするためチェックするとともに保安規定に定める「原子炉等安全審査委員会」による承認を受けることとします。
(2) 運転管理 
 運転員が運転操作の中で、判断に迷うようなことがある場合は、上位の者に相談する意識をもつことを「基本管理マニュアル」に定め、周知徹底し反復教育を実施して行きます。
(3) 教育
 運転員の技術の維持向上を図るために教育訓練計画を見直して、機器・設備の運転操作や巡視点検上の注意点等基本事項や基礎技術教育を着実に実施します。
 また、教育資料を全般的に見直し、必要な内容が確実に反映されるよう充実を図ります。
(4) 設備
 同様の吸着塔を持つ設備についても、温度検出による吸着塔の選択に係るインターロックを追加します。
 また、今後も運転・運用を継続する設備について、火災や漏えい発生防止の観点から設備点検を実施して、計画的に改善します。
  なお、焼損した後置フィルタユニットは同一仕様のユニットと交換し、トリチウム除去装置の配管及びダクトについては外表面の手入れと塗装を行い、弁については作動試験で異音が認められた弁も含めて分解点検を行った後、ガスケット・パッキン類を交換し、作動試験で健全性を確認します。
以上

図−1:トリチウム除去装置火災発生時の状況
図−2:フィルタ燃焼試験結果
図−3:トリチウム除去装置対策内容