第10章 ATR実証炉プロジェクト

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 引き続き、昭和54(1979)年から56年にかけて調整設計が実施された。ここでは、概念設計の結果に対し、安全性、信頼性、運転保守性及び経済性の観点から見直しが行われた。
 原子力委員会は、実証炉の建設について、原子力長計(昭和53年)において総合的な評価検討を行い、昭和50 年代半ばまでに決定することとした。また、同委員会が設置した新型動力炉開発懇談会(昭和53年4 月〜 54 年3 月)は、概念設計の成果に基づき次のように評価した。
・新型転換炉については、特に高速増殖炉の実用化が遅れた場合にその投入効果が大きく、軽水炉の使用済燃料から生じるプルトニウムを有効に利用できるなど早期に適切に実用化されるならば、我が国の核燃料サイクル確立の要請に応えうるものとして高く評価される。
・電気事業者等の協力の下に、実証炉の詳細設計を早急に進め、より確度の高い情報、資料の整備に努め、信頼性評価に必要な運転保守関係データの集積を図るものとする。これらに並行して、関係者協議の上、実証炉の建設主体についても早期に確定すべきである。
 原子力委員会は、昭和55(1980)年2月、調整設計がまとまり、実証炉のプラント性能評価及び経済性評価が可能となったため、学識経験者、電力業界、メーカー、通商産業省及び科学技術庁からの委員により構成される新型転換炉実証炉評価検討専門部会を設置し、チェック・アンド・レビューを開始した。チェック・アンド・レビューでは、実用化の意義、技術評価、経済性評価等の検討が行われ、昭和56(1981)年7月、我が国のエネルギーセキュリティの向上及び核燃料サイクル確立への寄与等を考慮すると官民協力して開発を進めていくことが望ましく、このため、資金分担、実施主体等について関係者の合意が前提となるが、実証炉を建設することは妥当である、との報告を答申した。
 また、電力業界と動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃」という)は、昭和54(1979)年2月に電源開発からの委員も含むATR合同委員会を設け、安全性、運転信頼性、運転保守性及び経済性の各面から検討を行った。
 原子力委員会は、チェック・アンド・レビューの結論を妥当と認め、その実現を図るため、昭和57(1982)年1月、電力業界に対し実証炉建設に対する協力とその実施主体の推薦を依頼した。また、同委
  員会は、ATRの開発について、同年6 月に決定した。
 原子力長計において、FBRに先立ってプルトニウムの早期利用を図っていくために開発を進めるものとした。ATRは、プルトニウムはもちろん減損ウラン及び劣化ウランをも有効かつ容易に利用できる特性を有しており、また我が国が、独自に開発を進めてきた炉型であって、同炉によるプルトニウム利用に関して核不拡散上国際的理解も進んできている旨、位置付けている。
 電力業界は、原子力委員会の実証炉建設に関する依頼に対し、同年6 月、政府の積極的支援を条件に実証炉1基の建設に協力すること、また、実施主体として電源開発を推薦する旨回答した。同月末、通商産業省、科学技術庁、電気事業連合会及び電源開発からなる四者会談で電源開発が実施主体となること、及びこの四者に動燃を加えた五者によるATR実証炉建設推進委員会の設置が合意された。第1回建設推進委員会は、同年8 月に開催され、建設工程、建設費が暫定的に設定され、また資金分担について合意された。
 同月末、原子力委員会は、「新型転換炉の実証炉計画の推進について」3)を決定し、実証炉(電気出力約60万kW)の建設・運転は電気事業者及び動燃の協力を得て電源開発が行うこと、実証炉に必要な研究開発及びMOX燃料の加工は動燃が行うこととした。
 この間、動燃は、チェック・アンド・レビュー、ATR合同委員会における検討・審議結果を反映して更に改善を図るため、設備の合理化、設備利用率の向上、実証炉設計の総まとめ等を重点にした合理化設計を実施し、昭和58(1983)年6月末で動燃としての設計取りまとめを完了した。

参考文献
1)動力炉・核燃料開発事業団:“動燃20年史”
2)動力炉・核燃料開発事業団:“動燃30年史”
3)原子力委員会:“新型転換炉の実証炉計画の推進について”、昭和57年8月27日決定


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