第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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滑に進めることに寄与した。
 大洗工学センターにおいては、FATRACコードに、実規模試験装置による個別効果試験から得られた相関式を組み込むなどして、コードの解析精度の向上を図り、「ふげん」の起動試験及びそれに続く多くの類似の運転データとFATRACコードによる解析が、一致することを確認した14)
 FATRACコードは、「ふげん」の解析に使いやすいように体系が固定されている。そこで、実証炉設計の解析・評価のため、柔軟な体系のATRECSコードを開発した。ATRECSコードは、FATRACと同様、核計算に6群の一点近似動特性方程式を用い、熱流動計算においては、炉心が、独立の2ループで各々の蒸気ドラムに接続されているなど、ATRの特徴を考慮したものとなっている。
 ATRECSは、伝熱流動モデルに一次元スリップモデルまたはドリフトフラックスモデルを用い、配管の熱容量も考慮できるよう配管の熱伝導方程式を同時に解く。また、炉浄化系、余熱除去系、隔離冷却系等の運転モード切替え後の過渡応答を、長時間にわたって解けるようにした。
 上記のように、「ふげん」における試験結果に基づいて、開発したコードの精度を評価した。
解析コードの検証
 「ふげん」の起動時に実施した、外部電源喪失模擬試験及びそれに続く原子炉隔離冷却系作動時の試験の結果と対応する解析結果との比較を、図9.5.7に示す。このケースでは、外部からの電源を遮断して原子炉を停止させ、その後の炉心のボイド減少等による蒸気ドラムの水位低下を回復させるため、隔離冷却系を作動させている。これは、2,400秒に及ぶ長時間の現象であるが、解析結果は、原子炉の主要なプロセス量を高い精度で予測していることが分か



図9.5.7 外部電源喪失及び隔離冷却系作動試験

る。このように長時間に及ぶ伝熱流動を高速で解析するため、大きな時間ステップで安定した解析ができるようにして、計算時間の短縮を図っている。
(5)冷却材漏洩検出法の開発16)
 高温高圧水が漏洩するときは、破断前漏洩(LBB:Leak Before Break)のようにLOCAを引き起こす配管の破断よりはるかに小さな穴でも、大きな音響が発生する。しかも、音響の発生と同時に漏洩検出信号を得ることができるメリットがある。そこで、多数の入口管群を監視対象に、マイクロホンによって、冷却材の漏洩音を早期に検出する方法を開発した。
 冷却材の漏洩検出技術を確立するために、
発生する漏洩音の特性
発生する信号の伝播特性
環境雑音特性
を把握するとともに、高温・高放射線環境に耐える検出器の開発試験を行い、漏洩検出システムの実用化の評価を行った。
漏洩音特性
 実機運転条件の7MPa、約280℃の高温高圧水を円孔及び粒界応力腐食割れを模擬した亀裂から放出させて、発生する漏洩音の振幅及び周波数スペクトルを測定した。マイクロホン信号の測定結果を図9.5.8に示す。マイクロホンによる漏洩音(実効値)は、円孔とスリットの違いによる差はなく、漏洩量のみに依存する。
伝播特性
 ATR安全性試験室において、実寸大の保温箱内配管群を模擬した実機と同一材質、同一寸法の入口管を用い、その漏洩孔から実機運転条件の高温高圧水を放出させて、空気中を伝播する音響特性を調べた。



図9.5.8 漏洩音特性(マイクロホンによる測定)



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