第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発![]() |
第 9 章 |
るような構造になっていた。しかし、実物のスペーサは、全長約5mの燃料集合体を圧力管に円滑に装着するため、わずかではあるが、0.6mm程の隙間が確保されていた(図9.4.3)。これは、燃料を装荷する上では不可欠な隙間であった。当時、直径約120mmの燃料集合体に対して0.6mmの隙間など誰も問題と考えていなかった。 解析してみると、わずか0.6mmの偏心でも局部的に蒸気重量率分布に大きな影響を与えることが分かった(図9.4.4)。 これは、計算結果に過ぎないものであったため、燃料集合体の偏心を人為的に制御しながら実験を行った。解析結果は、実験データとよく一致したとはいえないが、傾向はよく表していることが分かった。こうして0.6mmの偏心で、約20%限界熱流束が低下することが明確になった10)(図9.4.5)。 板状スペーサは、電磁力による燃料棒の撓みを最大でも0.1mm以下に抑えるため、燃料集合体の軸方向に260mm間隔でスペーサをセットしていた。実際の燃料集合体は、この間隔が約420mmであり、このスペーサ間隔が、限界熱出力に影響している可能性があった。そこで、実物のスペーサを260mm、340mm、420mmの三通りに変化させて、限界熱出力を測定した。結果は、図9.4.6に示すとおりである。260mmから340、420mmとスペーサ間隔を拡大すると、限界熱出力の低下が20〜40%となった。 これは、スペーサの下流に、スペーサによって生じた流体の掻き混ぜ効果が残存していて、下流のスペーサの上流側で生じるバーンアウト現象が抑制さ |
れるのではないかと考えられた。この効果は、板状スペーサでも実物のスペーサでも同様に観測できた。![]() 燃料のスペーサが、思わぬ効果を持っていることが判明した。まず、燃料集合体と圧力管の隙間による燃料集合体の偏心の効果は、円滑な燃料交換を遂行するために、必要であることを認めないわけにはいかない。したがって、この偏心によるマイナス効果を上回わるプラス効果となる因子を探し出して、燃料設計に取り込まなければならない。 スペーサ間隔を狭めることによって限界熱出力を増大することができるため、設計にこの効果を取り入れた。炉心内の流動による圧力損失の増大を、再循環ポンプの設計余裕内に抑えながら、スペーサ間隔のプラス効果を最大限引き出すには、熱出力が高い中央部のスペーサを3個増やし、間隔を260mm又は340mmに狭め、両端部の低い部分を従来通りの420mmにすることになった。これによって、燃料体偏心によるマイナス効果分を、大分取り返したことになった。 さらに、改善を図るため、燃料の配列を熱除去の観点から見直すことになった。ATR燃料は、重水中で減速された熱中性子が、圧力管の外側から燃料体に到達する構造になっているため、外層の燃料の出力が最も高く、次第に内側に向って減少する。 バーンアウトが発生するのは、(いつも)外層の燃料棒と中間の燃料棒に挟まれた図9.4.7に示す部分である。 つまり、冷却材の流量が最も少なく、蒸気重量率が最大になる部分である。この部分の寸法を少し緩めると冷却材が流れやすくなり、局部的な蒸気重量率を緩和できる。これにより、限界熱出力の増大を
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