第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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なかったのである。
(5) 燃料体改良による熱限界式の開発
 昭和47(1972)年4月、セラミックライナーをテスト部に装着し、実物のスペーサ(写真9.4.3)を使用した実験が可能になった。実験を始めて間もなく、奇妙なデータが続出するようになった。板状スペーサによる、それまでの限界熱出力のデータよりも数十%低目のデータだったのである。何度も実験が繰り返され、データに間違いないことが判明した。このため、以下の検討・研究を開始した。
板状燃料スペーサと実物スペーサとの違いによる限界熱出力の違いとその原因の研究
 熱限界出力に差が生ずるのはどんな因子に由来するのか、毎朝、全室員によるブレンストーミングが行われ、忌憚のない意見により少しずつ現象が見えてきた。まず両者の違いを上げていった。
スペーサ間隔
スペーサ構造(流体の掻き混ぜ効果)
燃料体の偏心
など次々と考えられる因子を整理した。次に因子の影響を評価する作業に取り掛かった。装置は、折悪しく、安定性実験に備えて大幅な改造工事に着手したばかりであった。工事が終わる10月までの間に、必要な実験の準備を終え、影響因子の評価を終らなければならなかった。



図9.4.3 燃料集合体の偏心

 幸い、昭和44(1969)年に、米国機械学会に出席した折、知り合った米国の学者(Dr. Raw)から譲り受けた二相流サブチャンネル解析コード(COBRA-)が手許にあり、若い室員の粘り強い努力でその整備が終ったばかりであった。
 早速、COBRA-を使って種々の解析を始めた。当時、大洗工学センターに二台の端末機(IBM及びCRC)を設置し、東京のコンピュータ本体を専用機として使える環境が整ったばかりであった。早速、COBRA-コードへの入力をいろいろ工夫しながら、解析に取り掛かった。
 まず明らかになったのは、意外にも燃料体の偏心の影響であった。実験用に特別に製作した板状スペーサは、模擬圧力管に対して正確に芯を合わせられ



図9.4.4 燃料集合体偏心の影響


図9.4.5 限界熱出力時の蒸気重量率の偏差量分布



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