第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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 そこで、蒸気泡に作用する力を解析した。水と蒸気との間は、透磁率に大きな差異はないが、誘電率は、約80倍の違いがある。したがって、磁場よりも電場の方が、影響は大きいと考えられた。しかし、解析してみると、磁場の気泡に及ぼす力は、無視できるほど小さいことが分かった9)
 初期の頃は、模擬圧力管は接地されており、わずか2mmしか離れていない模擬燃料体の一番外側の燃料棒との間に、最大175ボルトの電位差がつく。つまり約90V/mmの電位勾配が、圧力管との間に生ずることになる。この電位勾配の中に伝熱面に付着した気泡が存在すると、気泡には、蒸気と水の誘電率の差によって、気泡に作用する浮力とほぼ同等の力が作用することが分かった。初期の頃、熱除去限界に達する位置が、一番外側の模擬燃料棒に発生し、しかも外側に向かった点で生じていたのは、この力の作用で気泡が伝熱面に押し付けられ、伝熱面から離脱し難くなっていると考えられた。実験後、試験体を解体して、模擬燃料体が焼損した場所を調べると、まさしくそのような状態が観察できた。
 この電位勾配を低減する上で、内面を絶縁した模擬圧力管の開発に大きな意味が存在していた。セラミック方式の絶縁方式の導入後は、焼損の位置が燃料集合体の内側に移動したことからも、電位勾配の影響は無視できなかったと考えられる8)
軸方向不均一発熱管の開発
 炉心の軸方向発熱分布を模擬するため、外径が一定で、肉厚が軸方向に変化した発熱管を開発した。まず、切削加工で外径を軸方向に変化させ、スェージ法で内側に叩きながら、外形が軸方向に一定になるように仕上げるのである。最初は加工硬化で発熱管が割れるトラブルの発生に苦労したが、試行錯誤を重ねて精度の高い軸方向不均一発熱管を開発した。
(4)ふげん熱設計式の開発試験
 昭和45(1970)年2月末、14MW大型熱ループを使って、「ふげん」の炉心設計に使う限界熱出力の設計式の開発に取り組んだ。これは、「ふげん」と同じ炉心冷却材の流動条件を中心に、前後に流動条件を変化させて、流動条件に依存する限界熱出力の設計式を、実験的に求めることであった。
 まだ、試験体の電気絶縁方式を確立する前であったため、実験中に短絡が頻発して、実験を中断せざるを得ないことがよく生じた。このような状態を繰り返しながら、装置を使う状況であった。1年間を掛けて設計式にまとめることができるデータが揃っ
たときは、一安心したものである。
 開発した設計式は、データの最下限を直線で近似した次の形の式であった。

  q= a − bX

 ただし、a、bは定数,qは限界熱流束、Xは蒸気重量率。このように、「ふげん」の第1次設計の熱設計式を提供することができた2)
 このときの試験体は、実験用に特別に設計した板状のスペーサを使用した。このスペーサは、最大電流8万アンペアを流したとき、試験体内に発生する磁場によって、1本の模擬燃料棒に働く数十kg/mの電磁力に抗して、模擬燃料棒を所定の精度(0.1mm以下の曲り)で保持するために考案されたものである。
 模擬圧力管の内面を電気絶縁する技術がない当時は、模擬圧力管の軸方向に260mmごとにフランジを設け、その板状パッキンを絶縁体で挟み、模擬燃料のみに加熱電流を流す苦肉の策もあった。大きな問題として、形状の模擬の点を内蔵しながら、とにかくデータを優先して採集しようとする考えであった。当時は、この板状スペーサ(図9.4.2)による実験データで、後に大きな苦労をしようとは思いもし



図9.4.2 板状スペーサ(実験用)



写真9.4.3 実物のスペーサ



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