第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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流に、数百ヘルツの脈動電流が含まれているため、そのノイズをどのようにカットするかが課題であった。最終的に、現象とノイズが、掛け離れた周波数領域であったのを利用し、フィルター回路によって特定の周波数領域のノイズをカットする方式を採用して解決した。技術的課題は、試験部に付加する加熱電力の増加に伴って崩れるブリッジ回路の平衡をバランスさせる方法であった。最初は、サーボモータで緩やかな変化を追随させていたが、1回目のデータの採取後、次のデータの採取までにサーボモータで多くの検出器のバランスをとる方法は、時間が掛かり過ぎていた。この課題を解決するため模索を繰り返して最終的に電子式を採用した。当時、実用化しつつあったICを採用し、回路のリセットが簡単にできるようになり、大幅に時間が短縮できた4)
 後に、軸方向発熱分布を模擬した実験では、必ずしもバーンアウトが、発熱部終端で発生せず、軸方向の発生位置が特定できないため、ブリッジ回路を軸方向に10分割して、その発生位置を検出する方式を開発した。しかし、模擬燃料棒の内側から、合計11本のリード線を引き出すのは苦労の種であった。
 実際に、バーンアウト後の燃料集合体を解体して焼損部を観察した結果、軸方向均一発熱の場合は、バーンアウトが、発熱終端スペーサの上流で起こることが確認できたため、その位置に熱電対を直接取り付ける方式を開発した。取付け方法は、模擬燃料棒の内側からシース外径0.5mmの非接地型C-A熱電対の先端部を引き出し、燃料棒表面に平滑に銀ロー付けするものであった。この方式の採用によって温度変化を直接観測できるようになった5)
 その他、クォリティ(蒸気重量率)メータ7)やマルチ探針型ボイド計6)などを開発し実験に使用した。
試験体の電気絶縁方式の開発
(イ)電気絶縁ガスケットの開発
 試験を開始して間もない頃、ジェットエンジンの設計者から、エンジンの燃焼室に使っているガスケットの電気絶縁性が高いというヒントを戴いた。アスベスト系のシートガスケットの材料を合成ゴムで結合させる際、ゴムを粒状に分散してあり、電気絶縁性を長く保持できる可能性があった。
 実験の成功率は、このガスケットによって格段に改善されたが、まだ充分ではなかった。さらにその後、約4年間にわたって、種々の電気絶縁材と組み合わせた複合的なガスケットを試作し、遂に100%成功する方式の開発に成功した。

 それは、ガスケットの上にアルミナ系の耐熱性無機接着剤を均一に塗布して、徐々に加熱しながら焼成する技術であった。これにより、実験データが、計画どおり採取できるようになったのはいうまでもない。
(ロ)内面を電気絶縁した模擬圧力管の開発
 伝熱実験に実物のスペーサを使用する場合は、模擬圧力管のその内面を絶縁する必要がある。絶縁しないと、加熱電流が模擬燃料棒からスペーサを介して模擬圧力管に流れて、短絡してしまう。模擬圧力管の内面を絶縁するために、セラミック製の円筒を模擬圧力管の内側に内挿する方式を採用した8)
 最初の製品は、1回の実験で熱出力限界を測定すると、加熱電力を低減または遮断するため、セラミック製の絶縁体に入口サブクーリング相当の温度差が急激に加わり、熱衝撃によってバラバラに破壊された。
 セラミック製円筒の外側からステンレス製の「はめ円筒」をかぶせ、あらかじめ締め付けておく、またセラミックのコーナーに、応力を緩和する、あらかじめ丸みをつけてなどのいろいろな工夫を施して、更に半年間をかけて実用的な模擬圧力管を完成した(写真9.4.2)。
炉外実験の模擬性
 電気加熱と核加熱の違いによる伝熱試験の模擬性を解析評価した。試験体内部の磁場分布を具体的に解析すると、模擬燃料体の中に地球の磁場の数千倍もの磁場が発生することが分かった。この磁場は、一方向に電流を流す加熱方式を用いる限りなくならない。また、磁場が、バーンアウト現象に深刻な影響を与えるおそれがないかなど、解決しなければならいことがあった。



写真9.4.2 模擬圧力管(テスト部)に
模擬燃料体を挿入



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