第9章 大洗工学センターにおけるATR研究開発

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第9章 大洗工学センターにおける
ATR研究開発

 大洗工学センターは、昭和42(1967)年に動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃」という)が設立された直後からその建設工事が始められ、昭和45(1970)年3月に「大洗工学センター」として正式に開所した。
 ATRは、核燃料、とりわけプルトニウムの利用特性に優れた特長を持つ一方、軽水炉の技術と経験が大幅に活用できるため、実験炉段階を省略して原型炉すなわち、「ふげん」の設計・建設・運転を明確な目標として、その開発から着手することとし、研究開発を実施した。
 「ふげん」の開発を始めるにあたって、昭和42(1967)〜43(1968)年に行った第一次概念設計及び当時先行していた海外の重水炉開発状況の調査結果から必要な研究開発項目を明らかにするとともに、そのうち原子炉の性能また原子炉設計の基本に係る重要項目については、自らの手で研究開発を実施する方針を立てた。この方針に沿って、炉心の核・熱性能と安全性の研究及び燃料・圧力管集合体構造等の主要部品機器の開発のため、重水臨界実験装置(DCA)、大型熱ループ(HTL)、安全性試験装置(A安)及びコンポーネントテストループ(CTL)を建設し、研究開発を進めた。
 以下に、これらの研究施設の建設・活動経緯、各施設での研究開発の概要について述べる。

9.1 研究施設の建設経緯
 ATR開発計画を検討していた動力炉開発臨時推進本部のATR分科会(青木成文主査)に、炉心設計検討小委員会をはじめ全部で14の小委員会が設けられ、それぞれの専門分野について開発計画が討議された。ATR関係の諸試験装置については、昭和41(1966)年夏頃から、下記の4つの小委員会で積極的に検討が行われた。
(1)臨界実験専門小委員会(島史郎小委員長):重水臨界実験計画及び実験装置について
(2)単一流路専門小委員会(吉村国士小委員長):コンポーネントテストループによる流動試験計画及び試験装置について
(3)安全専門小委員会(竹越尹小委員長):安全性
実証のための開発研究及び試験装置について
(4)熱ループ小委員会(青木成文小委員長):伝熱流動開発研究及び伝熱試験装置について
 いずれの小委員会でも試験装置の必要性とその仕様及び実験計画について具体的な検討が行われた。このような討議を経て、臨界実験装置、沸騰熱伝達実験装置、単一流路内流動実験装置、安全性実証試験装置等の設置が提案され、開発計画に組み入れられた。臨界実験装置については、外国の既存の臨界実験装置の利用も検討されたが、核設計法の開発には、自前の実験装置が不可欠であり、炉心設計変更への即応、MOX燃料の炉物理データの集積などを考慮して臨界実験装置の建設が決定された。
 これらの試験装置を製作するにあたっては、試験体として実物または実寸モデルを使用し、できるだけ実機と同じ条件で試験できるように配慮した。これにより、スケール則や試験条件の相違に対する複雑な議論を必要とせずに試験結果がタイムリーに提供でき、しかも適切な裕度をもって実機評価ができた。気液二相流に対するスケール則が確立されていなかったため、HTL及びA安は、実寸の模擬燃料集合体を使用した実規模試験装置とし、CTLでは、実物の圧力管集合体、燃料集合体、シールプラグを実機と同じ熱的・機械的条件下で試験できるようにした。一方、DCAは、核特性上、重要な燃料集合体の断面形状及び格子ピッチを実寸(ただし、格子ピッチは三通りに可変できる)とし、炉心高さを実機の約1/2とした。


写真9.1.1 建設中の重水炉工学棟(昭和44年秋)



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