第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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時の人的過誤は、運転員の操作に許容される時間余裕に大きく依存する。
 しかし、停止時は、炉心からの発熱が崩壊熱のみであり、出力運転時と比較すると発熱が小さいため、運転操作に与えられる時間余裕が大きい。
 時間余裕は、起因事象の発生から炉心損傷に至るまでの時間で定義され、原子炉停止後の崩壊熱と原子炉内の保有水量から評価を行った。
 なお、ここで炉心損傷へ至るか否かの判断基準は、燃料上端の露出とした。
(ニ)人的過誤データ
 停止時における人的過誤は、事故前過誤と事故後過誤がある。事故前過誤は、試験・保守のあと、機器を動作可能な状態に復帰させることの失敗である。
 一方、事故後過誤は、事故後の診断に失敗したり、事故に適切に対応することの失敗である。
 停止時PSAを実施するにあたり、事故前過誤は、起因事象に包括されているため、ここでは事故後過誤について考慮するものとし、評価方法は、NUREG/CR-4772のASEP手法を用いた。
(ホ)機能回復データ
 出力運転時と同様に、ある機器が故障した場合でも、時間余裕が十分にある場合は、当該機器を修復し、機能を回復させることが可能である。
 停止時PSAにおける機能回復データは、出力運転時と同じ値を使用した。
炉心損傷頻度評価
 作成したデータベースを基に、フォルトツリー及びイベントツリー解析を行い、炉心損傷頻度評価を行った。出力運転時は、起因事象ごとにイベントツリー解析を行い、炉心損傷頻度を算出した。また、停止時も同様に、起因事象ごとに炉心損傷頻度を算出した。ただし、停止時は、起因事象が発生する時期により、成功基準、時間余裕及び使用可能な系統・機器組合せが変化するため、事象区分ごとに評価を行った。
(2)停止時PSA評価結果
炉心損傷頻度評価結果
 既述の手法を用いて、評価のために作成した標準工程を基に炉心損傷頻度を算出した結果、プラント停止時炉心損傷頻度の合計は、2.1×10−6/炉年となり、上限値でも出力運転時の目標値である10−5/炉



図8.5.9 起因事象別停止時炉心損傷頻度割合

年以下であることを確認した。
 起因事象別炉心損傷頻度評価結果を図8.5.9に示す。最も支配的な起因事象別の炉心損傷頻度は、電源喪失の63%、停止時冷却機能喪失の21%、冷却材バウンダリ機能喪失の16%である。
 電源喪失時の炉心損傷頻度は、停止時冷却機能喪失と冷却材バウンダリ機能喪失における過去のトラブル発生回数が0件であり、一方、電源喪失における過去の発生回数が3件であり、他の起因事象と比較して高くなっている。
 また、標準工程上、変圧器点検による電源喪失が発生する可能性のある時期に、炉心の水位を通常水位よりも下げて作業を行う再循環ポンプの点検を行っている。
 再循環ポンプ点検時は、炉心保有水量が少ないため、通常水位の時期と比較すると、運転員による認知のための時間余裕が短くなる。電源喪失の起因事象発生頻度が他の時期と比べて高くなる変圧器点検時に、通常よりも炉心の水位が低くなる再循環ポンプ点検を同時期に行っているために、炉心損傷頻度が高くなっている。
 次に定検時の事象区分ごとの炉心損傷頻度を図8.5.10に示す。図の横軸がプラント停止後の日数、縦軸が炉心損傷頻度を示しており、炉心損傷頻度は、プラント停止中の炉心損傷頻度の平均値を1とした相対値を示している。図に示すように、炉心損傷頻度は、工程により若干の変動があるが、最も高い時期でも平均値の3倍程度であり、工程を通じて特別に高くなる時期はないことが明らかとなった。
 なお、一次系耐圧試験時に炉心損傷頻度が高くなる理由は、蒸気ドラム逃がし安全弁を作動しないように固定しているため、バウンダリー破損の発生頻



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