第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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から、その操作が適切であったかどうかを評価し、必要に応じて更なる調整を加える。このような運転員の操作方法を自動制御システムに取り込むことができないか検討した結果、昭和62(1987)年当時、人間の感覚的な情報の処理に適するとして注目され始めたファジィ理論を適用することとした1)。考案されたファジィ制御システム(FLCS)は、基本的に上記のような運転員の思考に基づき構成している。すなわち、FLCSでは、LFCVの適切な操作量は、蒸気ドラム水位に関する推論部、流量バランスに関する推論部、及び原子炉出力に関する推論部の3つの推論部における推論結果に基づいて決定される。
 FLCSの推論フローを図8.4.15に示す。
 推論部(1)では、LFCVの操作量CA1が、実際の蒸気ドラム水位と設定値の差LE及び水位変化率CLに基づいて推論する。

 LE(t)=LV(t)−LS(t)

 CL(t)=dLV(t)/dt

 ここで、LV(t)は蒸気ドラム水位、LS(t)は蒸気ドラム水位設定値、tは時間である。
 推論部(2)では、LFCVの操作量CA2が、蒸気ドラムへの水の流入と流出の差FE2に基づいて推論される。前述のとおり、低出力領域では、給水流量や蒸気流量が少量のため、測定精度が十分ではないことから、これらの流量は、LFCV及びTBVの開度から計算により求めるようにした。流量偏差FE2は、給水流量FD、蒸気流量TB及び原子炉冷却材浄化系から復水器へのブローダウン流量BLOWを用いて、以下のように求める。

 FE2(t)=FD(t)−(TB(t)+BLOW(t))/2

 推論部(3)では、LFCVの操作量CA3が、蒸気ド
ラムへの給水流量FDと適切と評価される給水流量IFDの偏差FE3に基づいて推論される。IFDは、あらかじめ、解析により求められた原子炉出力とそれに見合う最適な給水流量の関係式を用いて、原子炉出力から求める。偏差FE3は、以下の式により求められる。

 FE3(t)=FD(t)−IFD(t)

 ファジィ推論は、「もし、LEが正で大きく、かつCLがゼロならば、CA1は負で大きい」といった言語ルールに基づき行われる。これらのルールは、最初に、熟練運転員からの聞き取りに基づいて作成し、それを動特性解析コードFASICを用いたシミュレーションにより、繰り返し応答を評価し、よりよい制御性が得られるように改良を加えた。ファジィ推論部(1)には35個のルールを入力し、推論部(2)及び(3)にはそれぞれ7個のルールを入力した。各推論部のルールを図8.4.16に示す。推論法は、下記に示すMin−Max法を用いた。

CA1(x)=Max{{Wil(LE)*Wjl(CL)*Xijl
     (x)}i=l-7, j=l-5}

CA2(x)=Max{{Wi2(FE2)*Xi2(x)}i=l-7}

CA3(x)=Max{{Wi3(FE3)*Xi3(x)}i=l-7}

 ここで、Wba(c)は、推論部(a)における入力Cに基づいて評価された、ルールbの適合度を意味している。また、Xba(x)は、推論部(a)におけるルールbの結論部を示すメンバーシップ関数を表し、*は、最小値演算を意味する演算子を示す。各推論部で得られた推論結果のファジィ変数CA1(x)、CA2(x)及びCA3(x)は、制御信号とするために、非ファジィ変数CA1、CA2及びCA3に変換される。



図8.4.16 各推論部の制御ルール


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