第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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用する場合、系統の大規模な改造が必要となることにより実現には至らなかった。
重水浄化塔イオン交換樹脂の低塩素化
 弱塩基性陰イオン交換樹脂(WA-21)は、図8.2.6に示すように、通常のイオン交換樹脂と同様、スチレンとジビニルベンゼンを重合させたあと、クロルメチル化工程及びアミノ化工程を経て、交換基の末端に塩素イオンが付加されたCl型の製品樹脂となる。したがって、樹脂中の含有塩素を低減する方法は、上述のクロルメチル化工程で樹脂本体に導入された塩素を除去する洗浄工程を加える方法と、最後の再生操作を入念に行って交換基末端に残留する塩素分を除く方法がある。
 「ふげん」においては、昭和58(1983)年から、まず、WA-21のCl型をOH型に再生する際に、一般品よりも再生レベルを上げ、交換基末端に残留する塩素分を低減している低塩素化樹脂(WA-21L)を採用した。しかし、樹脂製造から使用までの期間が1〜2年と長い場合は、交換基末端の塩素分だけを取り除く低塩素化では、不十分であることが判明した。
 これは、クロルメチル化工程で導入される有機塩素が、次のアミノ化工程でアミノ化されずに残留することが原因である。この対策として、WA-21の製造工程に、残留する有機塩素の分解洗浄工程を加えて、塩素分を低減した極低塩素化樹脂(WA-21X)を製造し、1986年度の重水冷温化設備と同時に採用した。
 WA-21Xの使用により、図8.2.3に示すように重水中の塩素イオン濃度は10ppb以下に抑制された。
ヘリウム精製方法の改善と基準強化によるヘリウム高純度管理
 ヘリウムガス中の窒素ガス濃度と重水電導度上昇率との間に、図8.2.7に示すような関係がある。
 これは、先に述べたように、重水のカバーガスであるヘリウムガス中の窒素が、原子炉内での放射線化学反応により、重水中の硝酸イオンや亜硝酸イオンに変化し、重水の電導度を上昇させるためである。このため、昭和58(1983)年からヘリウム中の窒素濃度管理目標値を、1.0%から0.1%に変更した。
 ヘリウム系内の窒素の供給源は、定期検査作業時にヘリウム系内に混入する空気である。したがって、原子炉運転期間を通じて、ヘリウム系内の窒素濃度を0.1%以下に維持するため、原子炉起動前のヘリウム精製運転を強化した。
 これによって、図8.2.3に示すように第7運転
サイクル(1983年後半)において、硝酸イオン濃度は従前の1300ppbから500ppb程度まで低下し、重水電導度も3.5μS/cmから2.5μS/cmに低下した。
樹脂比変更による浄化塔使用期間の延長
 重水浄化塔に充てんする弱塩基性陰イオン交換樹脂(WA-21X)と強酸性陽イオン交換樹脂(SKN-1)の混合比率は、運転開始当初、1:1(500:500)であった。重水浄化塔の寿命は、WA-21Xからの塩素イオン等の溶出(ブレーク)によって決まるため、WA-21Xの混合比率の高い方が、浄化塔全体の寿命としては長くなる。このため、WA-21Xの樹脂混合比を増加させ、効果を確認する軽水試験及び系統重水を使用した重水試験を行った。その結果、樹脂混合比(WA-21X:SKN-1)を2:1にすることにより、樹脂寿命を約30%増加できる見通しが得られ、実際に、昭和62(1987)年度から樹脂混合比(WA-21X:SKN-1)を2:1(670:330)として運転を行い、重水浄化塔の使用時間を約30%延ばすことができた。
(4)まとめ
 運転初期に重水水質の悪化を経験したが、各種実証試験等により水質悪化のメカニズムを解明した。効果的な水質改善対策を採用することによって、良好な重水水質を維持できるようになり、重水・ヘリウム系の化学管理技術を確立することができた。
 また、重水水質改善のための種々の対策は、水質改善だけでなく、イオン交換樹脂の使用可能期間の長期化による樹脂取替頻度の低減や、これに伴う劣化重水発生量の低減等による系統の維持管理の観点からも、省力化,経済性の向上に寄与している。



図8.2.7 ヘリウム中窒素濃度の重水電導度
上昇率への影響



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