第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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試験・検討結果を受け、昭和60(1985)年、第5回定期検査時に重水低温化設備を設置し、第9運転サイクル(1985年12月)より重水浄化塔の通水温度を49℃から20℃に低温化した。図8.2.3に示すように、低温化通水により、重水水質は、大幅に改善された。第8運転サイクル(1984年)の実績と比較すると、電導度は2.5μS/cmから0.8μS/cmに改善され、pDは6から7に上昇してより中性に近くなった。
 イオン交換樹脂からの溶出酸化分解物については、WA-21Xからの酸化生成物である硝酸イオンは、380ppbから120ppbへ、SKN-1からの酸化生成物である硫酸イオンの発生量は、130ppbから10ppb以下へと、共に低温化(49℃から20℃)により大幅に低下している。また、樹脂酸化生成物の1つである炭酸の発生量も、硝酸イオン、硫酸イオンと同様に低減した。
強塩基性陰イオン交換樹脂の採用
 陰イオン交換樹脂は、重水中に溶解されているホウ酸を吸着除去しないよう弱塩基性の樹脂を採用している。一方、強塩基性陰イオン交換樹脂(SAN-1)は、図8.2.5に示すように弱塩基性樹脂に比べて耐酸化性が強く、不純物除去性能に優れている。したがって、強塩基性樹脂を重水浄化に採用できれば、浄化塔への連続通水が可能となり、大幅な水質改善と樹脂交換頻度の低減が図れる。このため、強塩基性樹脂採用のための試験及び検討を行ってきた。
 強塩基性樹脂の不純物除去特性は、「ふげん」のホットカラム試験装置を用いて約6,000時間の系統重水の通水試験を行い、極めて良好な不純物除去性能が継続することを確認した。
 強塩基性樹脂の採用にあたっては、重水中のホウ酸を吸着しないように、ホウ酸飽和型樹脂を用いる必要がある。強塩基性樹脂(SAN-1)に対するホウ酸の重水中における吸着平衡関係は、

 Q={[S・C・exp(4230/T−3.65)] / [1+C・exp(4230/T−3.65)]} +C・exp(2000/T−2.90)

 ここに、
 Q:ホウ酸の平衡吸着量(mol−B/l−Resin)
 S:ラングミュア吸着定数(1.07mol−B/l−Resin)
 C:平衡ホウ酸濃度(mol−B/l−D2O)
 T:平衡温度(K)

で表されることが明らかになっている。

 この式に示されるように、通水温度やホウ酸濃度により樹脂のホウ酸平衡吸着量が異なるため、通水中に温度やホウ酸濃度が変化すると、ホウ酸の樹脂への吸脱着が生じて、重水中のホウ酸濃度変化が起こる。この吸着式は、重水中におけるカラム内でも成立することが、「ふげん」における重水中試験で確認されている。
 重水中のホウ酸濃度が変化すると、原子炉の反応度に影響が生じるため、強塩基性樹脂の通水中に生じるホウ酸濃度変化を、抑制することが必要となってくる。
 上述の吸着平衡式による計算コード(ATLOAD-3)を用いた検討において、ホウ酸濃度は、出力調整用制御棒の位置を検出端としたポイズンの注入及び除去ができるように、系統を改造することにより制御可能であることが明らかになっている。
 なお、実際の強塩基性樹脂の採用は、後述する弱塩基性樹脂の改良及び各種水質改善対策の実施により同様な効果が得られることと、強塩基性樹脂を採



図8.2.6 イオン交換樹脂製造工程



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