第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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(2)重水水質悪化のメカニズム
 重水水質悪化のメカニズムを明らかにするため、重水・ヘリウム系運転データの分析及び樹脂性能確認試験を行った。この結果、原子炉内重水の放射線分解によって過酸化重水素が生成され、これが、水質の悪化に重要な役割を果たすことが判明した。すなわち、炉心で発生した過酸化重水素が、重水浄化塔に流入して重水浄化塔内のイオン交換樹脂を酸化する。この時に生成した有機物は重水とともに原子炉内へ持込まれ、放射線分解、酸化分解され、その結果、硝酸イオン、亜硝酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン等が生成し、水質悪化の主原因となる。
 原子炉冷却系の場合にも原子炉内で過酸化水素が生成しているが、冷却材温度が284℃と極めて高いため、分解反応が迅速に進行し、系統内の過酸化水素濃度は、5ppb以下と極めて低い。これに対して重水系の温度は、最大約70℃であり、系統内に過酸化重水素が5〜10ppm存在するため、このような現象が発生したものと考えられる。
 水質悪化のメカニズムとこれらを基に採用した水質改善対策の概要を図8.2.2に示す。
 重水中の主要な不純物及び生成源は、次のとおりである。
硝酸イオン及び亜硝酸イオン:イオン交換樹脂の構成成分である窒素(N)を含む分子及びヘリウム
ガス中の不純物窒素ガス(N2)が、炉心内での放射線酸化反応を受けて生成する。
炭酸イオン及び重炭酸イオン:イオン交換樹脂の構成成分である炭素(C)を含む分子が、炉心内で酸化分解して生成する。
硫酸イオン:イオン交換樹脂の構成成分であるイオウ(S)を含む分子が、炉心内で酸化分解して生成する。
塩素イオン:イオン交換樹脂中に不純物として存在し、樹脂通水時に重水中に溶出する。
リチウムイオン:10Bの中性子吸収反応10B (n・α)7Liにより生成する。
10B:炉心の余剰反応度を制御するため、重水中に添加している。
(3)重水水質改善対策内容と改善効果
 重水水質改善は、過酸化重水素によるイオン交換樹脂の酸化を抑制するため、重水浄化塔内のイオン交換樹脂と重水との接触時間を制限することが必要であった。このため、それまで連続的に行われていた浄化塔通水を、1日当たり1〜4時間の間欠的な通水とした。さらに、一層の水質改善を行うため、次に述べる対策を検討・実施してきた。
樹脂の酸化、劣化の主原因である過酸化重水素分解触媒の開発
樹脂の酸化劣化を抑制する重水通水温度の低温化



図8.2.2 重水水質悪化のメカニズムと水質改善対策


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