第8章 「ふげん」における運転・保守技術の高度化

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8.2 重水取扱技術及び重水リサイクル技術の確立と実証
8.2.1 総 論
 「ふげん」においては、減速材に使用する重水の取扱技術の経験はなく、発電用重水炉としては国内初であり、先行重水炉の経験を参考に実施してきたが、約25年間にわたる運転経験の積み重ねや各種実証試験等により、「ふげん」独自の重水の管理・取扱技術の確立を図ってきた。
 運転初期は重水の水質悪化のメカニズムの解明と水質改善を目的とした試験を行い、その成果を運転手法に反映することにより、水質を良好な水準に維持することが可能となり、水質管理技術の確立を図ることができた。
 また、重水炉の特徴として、Co-60等の腐食生成物に対する放射線管理に加え、重水に含まれるトリチウムに対する放射線管理が必要であり、作業管理方法の工夫及び測定技術・防護具の改良・開発を行い、多くの成果を得てきた。
 さらに、重水浄化系樹脂の交換時等に発生する劣化重水(重水濃度の低下した重水)を効率よく、再濃縮する重水精製装置を開発し、劣化重水を所内で再使用することにより、経済性の向上を図ってきた。
 ここでは、運転実績・経験・開発試験等により得られた重水水質管理技術、トリチウムを含む重水取扱技術、重水浄化系樹脂の取扱技術、重水リサイクル技術の成果について述べる。
8.2.2 重水水質管理技術1)-5)
(1)水質管理の概要
 「ふげん」の減速材系は、重水系及びヘリウム系から構成されている。重水中に、余剰反応度を調整するためにホウ酸を注入しているが、その他水質調整のための薬品等は添加していない。重水系は、閉サイクルであり、腐食生成物等の不純物を除去するため、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂の混床式浄化塔により浄化を行っている。陰イオン交換樹脂に弱塩基性樹脂を用いているのは、浄化時に重水中に添加しているホウ酸が吸着除去されないようにするためである。
 重水の一部は、炉心で重水素と酸素に放射線分解され、カバーガスであるヘリウムとともに再結合器に導かれ、再び重水として回収される。重水素は燃焼性の物質であるため、ヘリウムガス中の重水素濃度を常時測定し、急激な燃焼が生じないように管理している。ヘリウムガス中の窒素等の不純物は、活性炭式吸着塔により必要に応じ浄化している。
 「ふげん」の運転初期における重水・ヘリウム系の化学管理の主要課題は、起動試験時に減速材重水の電導度が、図8.2.1に示すように当初の予想を上回る値を示したことによって発生する種々の問題を解決することであった。このため、電導度が上昇する原因となる水質悪化のメカニズムを解明し、重水浄化塔における通水温度の低温化等の対策を考案することにより水質の改善に成功した。



図8.2.1 起動試験時の重水電導度変化


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